九州豪雨 牛舎襲う濁流「悪夢のよう」 熊本・人吉の農家

人の背丈ほどの濁流に漬かった小野さんの牛舎。湿った泥が厚く残る(6日、熊本県人吉市で=染谷臨太郎写す)

 「夢んごたるよう(夢のよう)やった」。熊本県人吉市の繁殖牛農家、小野芳廣さん(63)は、球磨川のほど近くに立つ牛舎の中で大雨を振り返る。川からの水や土砂が流れ込み、水が引いた後も、どこから流れてきたか分からない堆積物が残る。

 4日の午前6時ごろに家の周りや牛舎の様子を確認すると、まだ水は床下にたまっている程度だった。そこから2時間ほどで水位が急激に上昇。150センチほどの高さまで浸水した。

 川がある畜舎の南側からではなく、水稲用のビニールハウスや米の乾燥機などを置く東側から水が押し寄せた。上流で氾濫した水が流れ込んできたようだ。自宅裏手の牛舎では、牛が水から逃れようと柵の上から顔を出したり、近くで懸命に泳いだりしていた。

 小野さんは息子と一緒に、逃げようとする子牛のもくし(頭絡)をつかみ、飼槽の20センチもない狭いへりに立って耐えた。子牛がおぼれないように顔を出させ、自分も水で流されそうになりながら、3時間あまり、水の中で格闘した。

 「牛は家族と一緒。死なすわけにはいかん」という一心だった。生まれて2、3日ほどの子牛は、わらを入れるために作った牛舎の2階部分に避難させた。震える子牛を毛布でくるみ、温めた。

 4日昼ごろに水の勢いは収まった。飼養する母牛8頭、子牛8頭は全て無事だった。夜のうちに球磨畜産農協に一時避難させた。

 牛の無事に安堵(あんど)する小野さんだが、目の前には惨状が広がる。木造の牛舎は堆積した泥が片付いてもそのまま使えるか分からない。避難させた牛のうち3頭は出産を間近に控えている。「どこか仮置きできる場所を探さなければ」と話す。導入して数年しかたっていないコンバインや乾燥機、農機具なども全て水に漬かった。動かせるかどうか分からない。

 「夢んごたると思ってもこれが現実。考えられないことが起こった。これは実際に(被害に)あってみらんば分からん」。小野さんはつぶやき牛舎を見つめた。

 JAくま災害対策本部は、5日から被害状況の把握を始めた。球磨川の氾濫で特に被害の大きかった人吉市や球磨村などの農業被害状況の把握を進めているが、6日も大雨が降り続き、作業は難航している。(三宅映未)

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