県外アルバイターにPCR ミカン出荷官民で維持 愛媛・八幡浜市とJAにしうわ

 全国有数の温州ミカンの産地、愛媛県八幡浜市とJAにしうわは、秋に収穫や選果を担う県外の「アルバイター」に対し新型コロナウイルスのPCR検査を行い、陰性を条件に働いてもらうことを決めた。市内でのアルバイター経験者を主な対象とし、昨年と同規模の400人を想定。感染拡大を防ぎながら質量ともに出荷を維持し、地域住民にも安心してもらうのが狙い。検査はJAが担い、市が経費約1億円を助成する。(丸草慶人)

 市とJAが明らかにした。外国人技能実習生や県外の人員に頼る全国の産地は今年、入国や国内の移動規制から人手不足の危機に直面。産地での官民連携の大規模検査は例がなく、コロナ禍の人員確保策として注目される。

 市がJAへ助成するのは、検査費や結果が判明するまでのホテル宿泊費、この間の休業補償費など総額9474万2000円。大半を国の新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金で賄う。大城一郎市長が8月上旬、予算を専決処分し、事業決定した。

 JAはアルバイターを県内外で募集し、農家にあっせんしてきた。今年は県外募集を中止したが、過去に雇用したアルバイターの受け入れを望む農家が多く、JAと市がPCR検査実施に向けて協議を重ねた。

 受け入れは最大400人を想定し、クラスター感染が起きている地域からは除外する。農家らと雇用関係を結んだアルバイターは、県入りする10月下旬~11月中旬の14日前から外出を控えて毎日3回の検温を行い、県入り後は県内のホテルでJAによる民間検査機関提供のPCR検査を受ける。陽性ならば保健所対応となり、就労できない。JA出荷以外の農家が検査事業を利用する場合もJAが対応する。

 宇和海に面した斜面で栽培される八幡浜の温州ミカンは人気が高く、全国への出荷量は3万2000トン超と県内最多。ただ、農家のほとんどは家族経営で、6割が60代以上と高齢化が進む。近年は離農や栽培面積の縮小も目立ち、若手を中心に1戸当たりの耕作面積が拡大。アルバイターの雇用は不可欠となった。

 市の菊地一彦農林課長は「(検査しても)県外からの受け入れには懸念の声もある」と一部に慎重論があることを認めた上で、「地域の産業を守りながら、住民が安心できる仕組みだと思う」と話した。JAの濱田賢資常務も「(質量とも出荷を維持し)産地の使命が果たせる」と語った。
 

<ことば> PCR検査


 咽頭や鼻腔内を拭って採取した液状の検体から、新型コロナウイルスを特徴付ける遺伝子配列を調べ、ウイルス保有の有無を確認する。検体を採るタイミングが早いなどの理由で陰性となる「偽陰性」が起きるケースもある。
 

待ち遠しい再会の時 県外人材受け入れ「ほっ」 感染防止「できること全てやる」


 県外での募集中止から一転、八幡浜の農家と1500キロ離れた北海道にいるアルバイターがテレビ電話で再会を誓い合った。

 「2人とも変わりなく元気そうですね」

 西日が水平線に沈んだ8月20日午後7時、八幡浜市にあるJAにしうわ真穴共同選果場。スマートフォンの画面に現れた女性2人に、ミカンの摘果作業を終えたばかりの農家、大下克夫さん(52)と井上金蔵さん(54)が懐かしそうに語り掛けた。

 

スマートフォン越しに語り合う大下さん(右)と井上さん。久しぶりの対話を喜び、コロナ禍での近況を報告した(愛媛県八幡浜市で)
 女性2人は松山真由美さん(38)と田中由紀子さん(45)。こちらも、アルバイターとして働いている北海道富良野市の農園で仕事を終えた直後だった。画面越しの4人は「お会いできる日が楽しみですね」と疲れも見せず近況を交わした。

 南北に細長く、起伏に富んだ日本列島は、農産物の収穫期が季節や産地によって変わる。松山さんと田中さんは、この地理的特性を利用し、全国の農園や選果場を季節ごとに巡る働き方をしている。昨年11、12月は八幡浜で温州ミカンの選果作業に当たった。

 大下さんが「2人のような人がいるから日本一のミカンを出荷し続けられるんだ」と感謝した。

 日本における新型コロナウイルス禍は、2人が八幡浜を離れた直後に始まった。4月に入ると、緊急事態宣言が出され、愛媛県でも県境を越える移動の自粛が要請された。

 富良野にいた松山さんは「八幡浜で働けなくなる」と不安に駆られた。行けたとしても、自らが感染源となれば産地に多大な迷惑となるし、仕事を失う恐怖もあった。4月下旬、矢も盾もたまらなくなり、真穴共同選果場へ電話した。

 

 電話に出たのは井上さんだった。「今年も選果場で働けますか」と尋ねた松山さんの気持ちは痛いほど分かった。例年だとアルバイターの募集は8月から始まる。しかし、それまでにコロナ禍が終息しているのか分からず、むしろ悲観的な見方が多かった。だが、県外からの人手がなければ選果場はフル稼働できない。焦る気持ちは井上さんも同じだった。「来てほしいんだけど、ちょっと待って」。そう答えるのが精いっぱいだった。

 かんきつの出荷量が全国最多の愛媛県は、八幡浜のように県外からの人員に支えられ、収穫や選果を行ってきた。昨年は過去最大級の440人が働いた。その多くは首都圏など都市部からだが、松山さんのような農業専門のアルバイターも少なくない。都市と地方は、往来が制限されたことで、それまで意識されなかった相互依存の関係に気付かされた。

 危機感を抱いたJAが、県外アルバイターの受け入れについて議論を本格化させたのは5月下旬。感染拡大への懸念から反対意見は多かった。潮目が変わったのは、市とPCR検査について折衝を始めた6月中旬だった。年間販売額が150億円を誇り、地域の雇用を支える巨大産地。市が予算化の検討に入るのに時間はかからなかった。

 テレビ電話で田中さんは「周囲で感染者が出れば自分も仕事ができなくなるし、農業に携わるアルバイターの立場も危うくなる」とPCR検査の実施を歓迎した。松山さんも「そこまで徹底するとは」と驚きつつ、「私たちのことを大切にしてくれている何よりの証拠だと思う」と言った。

 真穴共同選果場は現在、アルバイター用宿舎の個室化や選果場の飛沫(ひまつ)感染防止対策を進めている。「みんなが安心して作業できるようにやれることは全てやる」。副共選長も務める井上さんが1500キロ先にいる2人に笑顔で言った。
 

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