角川博さん(歌手) 人生はお好み焼きと共に

角川博さん

 小さい頃は偏食がすごかったんです。食べられるものといえば、肉全般、ハムとウインナーソーセージ、卵。それにキャベツとモヤシでした。野菜の中では、キャベツともやしだけは食べられたんです。というのもこの二つは、お好み焼きに入っているから。

 広島出身の僕にとって、お好み焼きはおやつではありません。ご飯です。毎日食べました。そのおかげでキャベツともやしを食べられるようになったわけですし、嫌いな食材でも好きなものと一緒にすれば食べられるということが分かりました。それで少しずつ試していき、徐々に嫌いなものを克服していったんです。
 

嫌いな野菜克服


 例えばタマネギは、肉と卵と一緒にすることで、食べられるようになりました。牛肉とタマネギをしょうゆと砂糖で甘辛く炒めて、溶いた卵をバーッと入れる。それをすくってご飯にのせ、牛丼風に食べるんです。これがおいしくって。今でも作りますね。

 トマトは砂糖をかけることで、青臭さと酸味を克服できました。

 20歳を超えたあたりから、だいたいの野菜は食べられるようになりました。野菜は煮込んで料理するといいですよね。まろやかなうま味がありますし、肉など他の食材の良さも引き出してくれます。

 子どもの頃、家の近くにお好み焼きの店が5、6軒あり、そのときそのときの気分によって店を選んで入っていました。

 戦後、自宅を改造して始めた店が多いんです。広島は原爆のため家族が散り散りばらばらになりました。残された人がお好み焼き屋をやりながら、行方不明になった身内が戻ってくるのを待っていたんです。家族が戻ってきたときにちゃんと分かるようにと、その人の名前を店名に掲げて。

 高校時代は学校の正門の前にお好み焼き屋がありまして、お昼時と部活が終わってからと、1日に2回通っていました。

 僕の好きな具は、イカフライと豚。ここでいうイカフライとは、乾燥させて粉末にしたイカと小麦粉を使った駄菓子で、イカの形をしています。それをちぎって、お好み焼きにのせるんですね。

 そばを入れたり、うどんを入れたり。そばとうどんをミックスさせて、食感の違いを楽しみながら食べるのもいいですね。

 鉄板の上で焦げるソースの匂いにそそられながら、直接鉄板の上からヘラで食べます。

 お好み焼きに使われる「お好みソース」には、独特の甘さがあります。大阪の方のソースは辛く感じます。やっぱりお好み焼きには、まろやかな甘さのソースが大事です。お好みソースの甘さは、デーツというナツメヤシの実で出しているそうです。デーツとは、栄養価の高いドライフルーツなんだそうです。ソースの材料には他にトマトやタマネギなども入っているので、これをかけるだけで野菜が取れるわけですね。
 

マイソース携帯


 僕にとって、ソース=お好みソース。トンカツやハンバーグはもちろん、天ぷらにもかけて食べます。外食のときは、小瓶のソースを持ち歩いて使います。トンカツ屋さんの中にはオリジナルソースを作り、「自慢のソースです」と勧めてくれるところがありますけど、店の人が見ていないタイミングで、バッグからお好みソースを取り出してかけます。

 僕の体はお好み焼きでできているんです。3歳のときから食べていますからね。今でも家で、フライパンを使って作っています。(聞き手=菊地武顕)

 かどかわ・ひろし 1953年広島県生まれ。高校卒業後、クラブで歌っているところをスカウトされ、76年に「涙ぐらし」でデビュー。レコード大賞新人賞、日本有線大賞新人賞などを受賞した。78年に「許してください」で紅白歌合戦初出場。アルバム「角川博全曲集2021」、シングル「雨の香林坊」発売中。
 

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