宝の山への道 多様な感性 巻き込む 農業ジャーナリスト小谷あゆみ氏

 静岡県松崎町の棚田へ田植えに行ってきました。地元保存会の人たちが復活させた370枚の棚田で先週末、棚田オーナーら700人が集まる田植えイベントがあったのです。

 泥んこで手植えをし、きらきら光る水田や無数のオタマジャクシに驚きながら初夏の棚田を満喫しました。私も友達も正直、労働力とは程遠いものでしたが、地元特産の桜葉おにぎりやお赤飯の振る舞い、車の送迎など町の皆さんから手厚い歓迎を受けました。

 保存会の高橋靖会長は現在79歳。最近は棚田まで歩いて上るのは大変とのことですが、子どもも大人も用水ではだしになり、解き放たれた様子を見ていると、訪れた人は土からエネルギーをもらい、田んぼには“にぎわい”という別の力がもたらされていました。昔からお田植え神事があったように、田の土に苗を指し込んだその日から恵みの秋を迎えるまで、天候と人との知恵比べが始まります。年に一度の田の開会式には、祭りのにぎわいがふさわしいと感じました。

 面積の8割が森林という松崎町は、半農半漁の町。伊勢エビで大宴会の翌日はマウンテンバイクツアーに参加しました。山で炭焼きをして江戸へ運んだ時代の古道をバイクのコースとして再生・開発しているのです。

 山伏トレイルツアーを営む松本潤一郎さん(35)は、ヒマラヤをはじめ世界中の高山を旅した経験があり、最も日本らしい炭の道こそ、マチュピチュの古道のように世界に向けて発信できるとひらめいたそうです。今では欧州など世界中のバイク雑誌が取材に来るほどです。

 マウンテンバイクに立ち乗りして新緑の古道を駆け下りる途中には、馬頭観音やお地蔵さんがまつられ、人々がこの山を崇拝してきた歴史を感じさせます。松本さんはまた、古道再生で伐採した木をストーブのまきや、隣の西伊豆町伝承のかつお節をいぶすまきに仕立てたり、流行の「スウェーデントーチ」というたき火材に商品開発したりするなど、山を資源循環の基地に変えています。

 夏の海以外は静かだった西伊豆の小さな町は、山を生かすことで春も冬もにぎわう拠点になろうとしています。時代とともに荒廃した棚田も山林も、新たな視点を持つ人にとって“宝の山”です。そうした多様な感性の人をどう巻き込み、参画してもらうか。それは地域が旅人をどう“包摂”するかにかかっています。

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