忖度がもたらす災難 国の行く末 誤るかも 特別編集委員 山田優

 手元の辞書によると「忖度」は「他人の気持ちを推し量ること」とある。何やら日本の美しい美徳のようにも響く。だが、最近世の中を騒がしている忖度はそんな生易しいものではないらしい。

 普段威張っている官僚たちが、安倍晋三首相のお友達が困っているのを知ると、突然手を差し伸べる。国有地の売却価格を値下げしたり、渋る文部科学省を押し切って獣医学部の新設を認めたりとやりたい放題だ。

 文科省の前事務次官が先週、「実は官邸の圧力に困っていました」と記者会見で告白すると、菅義偉官房長官は「既に調査したがそうした事実はない」と頬かむりした。不思議なことに元次官証言を表立って裏付けする発言が続かない。

 霞が関生活が長い複数の元農水官僚に話を聞いた。こんな感じの会話になった。

 「事務次官に説明する時は課長補佐、課長、部長や審議官、局長はもちろん、他局まで根回しするはずではないですか」

 「今回は、官邸が絡む内々の話だから、たぶん担当課長は直属の上司と官房のごく一部の人しか相談しないと思う。内容を詳しく知っているのは、課長補佐を入れても数人だろう」

 「真実を知る人が政府内に複数いながら、情報が漏れてきませんね」

 「今の官僚は官邸を相当怖がっているように見える。前次官が覚悟を決めて話をしたら、出会い系バー通いの話がメディアに出た。自分が職を辞めれば真実を語れるという簡単なものではないと思う」

 官僚に忖度をさせ、事態が発覚すると、今度は内部告発者をつるし上げる。官僚はもちろん、与党内からも大きな批判が出てこないのは、安倍首相と菅官房長官が強大な権力でにらみを利かせているからだろう。

 1年前に発刊された『食料も大丈夫也』(海野洋著、農林統計出版)は、80年ほど前、戦争推進を唱える権力に引きずられた農林行政の過ちを分析した興味深い本だ。

 農林官僚たちは、開戦前夜に現実的ではないことを承知の上、「基盤整備と種子改良によって戦時の食料は賄える」と結論付けた。結果として無謀な太平洋戦争入りのお先棒を担いだ。勇ましいスローガンと強大な権力に対し口を閉ざすことが、その後どんな国難を招いたか。私たちはそれを知っているはずだ。

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