畜安法改正案衆院通過 酪農マルキン導入を 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏

 規制改革推進会議の答申に沿ってまとめられた「農業競争力強化プログラム」に基づく関連8法案の一つとして、畜産経営安定法(畜安法)改正案が衆院を通過した。総合農協の解体に先んじて、酪農協の共販の解体が“いけにえ”になった感がある。生産者の価格交渉力・需給調整機能は間違いなく落ちて、酪農所得は減少していく。酪農所得向上のための法改正の訳はなく、一連の農協共販解体による「買いたたき」強化の一環だ。

 もちろん、独自の品質の自慢の生乳を合乳せずに販売したいなどの酪農家の要望に応えることは重要だが、だから組織を壊せばいいというのは短絡的だ。それは組織・制度を壊すことによってではなく、指定生乳生産者団体(指定団体)制度の中に酪農家個々の創意工夫がしっかりと評価される柔軟性を組み込み、組織の結束力強化と個々の創意工夫の評価システムを最高の形で融合することによって達成できる。

 「50年ぶりの見直し」という言葉に喜ぶ官邸と規制改革推進会議の「実績作り」のために勝手に指定団体の崩壊へのレールは敷かれてしまった。50年ぶりの改定が、食料・農業・農村審議会で一度も議論されずに進められるのも異常である。最初から結論ありきで、①補給金対象を限定しない②全量委託を要件としない――ことが決まってしまい、後は条件闘争だけになっていた。

 「生乳流通を自由にする」と明言する一方で、「生乳需給調整に国が責任を持つ」「用途別販売計画に基づき監視する」「いいとこ取りの部分委託は認めない」と法案に書いているが、いずれも、言葉は躍れど、実効性が担保できるとは思えない。政府側は正面から回答すれば馬脚を現すから、詳細は政省令で定めるからと逃げて、まともに議論せずに採決ありきになっていた。

 当初、所管官庁は抵抗したが、担当局長も担当課長も異動になった。後任の担当局長や担当部局は政省令で工夫して何とか実害を少なくしようとしているが、「小細工はするな」と監視の目が光っている。

 現状の酪農所得の低迷の原因は、①生乳市場における取引交渉力の格差②政府によるセーフティーネットの欠陥――にあり、小売りの力が強い市場での規制緩和は、競争条件の対等化でなく、一層不当な競争に生産者をさらす。競争市場を前提とした規制緩和万能論はまやかしである。

 この場合、正当な政策は、①共販組織の強化②セーフティーネットの強化――であるが、①が逆に崩されようとしている下で、最低限、牛肉や豚肉に実施されているセーフティーネットを酪農にも適用して「酪農版マルキン」を導入することが必要不可欠である。関係者が「省令で歯止めをかけてくれるはずだから、じっとしていた方がよい」と考えてしまうと危うい。
 

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