農業改革8法成立 姿が見えない現場主義

 農水省が通常国会に提出した農業改革関連8法が成立した。生産資材や農産物流通の業界再編を促す農業競争力強化支援法や主要農作物種子法(種子法)廃止など農政の大転換となるもので、慎重な審議が求められた。だが、政府は現場の不安や懸念を置き去りにしたまま8法成立に突き進んだ。「官邸の意向」を背景に強引に改革を進めても混乱を招くばかりだ。農政運営の根幹としてきた現場主義の姿が見えなくなりつつある。

 現場の不安や懸念が置き去りとなった象徴が、付帯決議の多さだ。新たな加工原料乳生産者補給金制度を盛り込んだ改正畜産経営安定法などで付帯決議が採択された。法律の乱用を防ぐため、政府にくぎを刺す内容が目立つことも今回の特色だ。

 都道府県に優良な稲や麦、大豆の品種を奨励品種に指定し、種子の生産、普及を義務付ける種子法の廃止では、種苗法で一定の手当てがされたものの都道府県の種子生産後退の懸念がある。そこで、政府に都道府県の種子生産の予算確保や外資による種子独占の防止に努めることなどを求める付帯決議が採択された。

 衆院農林水産委員会が採択した改正畜産経営安定法の付帯決議では、政府の規制改革推進会議の意見を参考にとどめ、生産現場の声を踏まえた対応を求める内容を盛り込んだ。新たな補給金制度の運用に当たり「現場実態を踏まえ、酪農生産基盤の強化に資するものとなることを第一義」とした。政府提出の法案に立法府が疑問を突き付けた格好で、極めて異例だ。

 米の生産調整見直しについては今でも現場に慎重論があるが、生産者や団体を中心とした「需要に応じた米生産」に移行する方向だ。その一方で、指定生乳生産者団体(指定団体)が堅実に生乳の需給調整をしてきたにもかかわらず、国が年間販売計画を基に飲用向けと乳製品向けの需給調整を行うことになった。米と生乳でちぐはぐなことを同時並行で進める形で、政府の対応は矛盾に満ちている。

 最も懸念が残るのは、農業競争力強化支援法。国は農業生産資材や農産物の流通状況を施行後1年以内に調査し、2年以内に施策を検討することになったが、これは政府の規制改革推進会議がこだわる農協改革の「期限」と符合する。JA全農の改革をはじめとする農協改革のフォローアップで、政府が同法を根拠に干渉を強める恐れがある。同法による農業者の所得増大に向けた業界再編の責務は国も担う。国が業界再編を推し進められなかった場合、誰が責任を負うのかも明示してもらいたい。

 国民は安倍政権に政策決定を白紙委任したわけではない。特に現場に密着した農政運営は、農家らの声に十分に耳を傾け、現場がついていける手法や速度で改革を進めることが肝要となる。政府は、8法で採択された決議に込められたメッセージを重く受け止めるべきだ。

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