[達人列伝 9] リンゴ育種 岩手県奥州市・高野卓郎さん 「食べて感動」を追求 1万本に1本何よりも根気

育種用の園地でリンゴの結実を確かめる高野さん(岩手県奥州市で)

 早生リンゴが出回る2週間前から出荷できる、極早生種「紅ロマン」。岩手県奥州市の農家、高野卓郎さん(76)が生み出した品種だ。「一口食べた瞬間、感動するリンゴでなければ消費者に届けられない」が持論。育種に携わるのも、自信を持って出荷できる品種を手にするためだ。

 「紅ロマン」は、「シナノレッド」と「さんさ」の自然交配で生まれた。80本の実生の中で1本、従来はあり得ない8月中旬に真っ赤な実を付けていた。かじってみると、口の中に甘味が広がった。「リンゴが少ない8月に出せる」と確信。2011年、正式に品種登録された。

 「紅ロマン」だけにとどまらない。9月に取れる黄色品種で同時期の「つがる」よりも日持ちに優れる「ゴールドロマン」、糖度15に達する赤色品種「奥州ロマン」、黄色品種で糖度15に達する「藤原ロマン」と次々に新品種を生み出した。

 これらを育んだのは、60アールの育種専用の園地だ。実生から育てた6000本以上が並び、栽植密度は10アール当たり1500~2000本で通常の3倍以上。限界まで密度を高めて、可能な限り多くの候補を確保する。高野さんは「1万本に1本、優良品種が見つかれば良い方。根気よく続けないと、良い品種には出合えない」と話す。

 優れた特徴を持つリンゴを育てるのと同時に、高野さんが重視しているのは果実の形だ。加工用を除いた製品率は9割を超える。地元のJA江刺によると、製品率9割以上の農家は少ないという。

 形を整えるには多くの雌しべに授粉し、一つの果実に満遍なく種を入れる必要がある。このため、曇天や低温下でも活発に動くマメコバチを授粉に使う。以前は繁殖力の弱さを補うため、人工授粉を組み合わせてきたが、天敵が増殖する前に新しい巣箱に移動を促す技術を考案し、繁殖力を高めることに成功した。

 「味や出荷時期、形。どれも消費者に喜んでもらうには欠かせない要素だ。これからも甘くて美しい最高のリンゴを追求していく」と意気込む。(鈴木琢真)
 

経営メモ


 リンゴ9.5ヘクタールのうち「紅ロマン」など「ロマン」シリーズが3割を占める。数年内に独自品種を5割まで高め、周年出荷したい考え。労力は自身と妻、息子夫妻の4人。
 

私のこだわり


 「栽培も育種も、従来通りのやり方や教科書に頼っていては駄目。常に改善できる点がないかを考える」

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