緊迫 日EU交渉 「自由化ドミノ」に懸念

 欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)大枠合意の動きが一段と加速してきた。大きな問題は安倍晋三首相の「前のめり」の姿勢である。保護主義への対抗、自由貿易堅持の名の下に、自動車と農畜産物をてんびんにかけ、農業に犠牲を強いる動きを懸念する。譲歩の内容次第では、他の通商交渉で新たな自由化が“連鎖”する「自由化ドミノ」が起きかねない。

 全国の農業者が最も心配しているのは、十分な情報がない中でなし崩し的に押し切られないかという点だ。オーストラリア、米国を含む環太平洋連携協定(TPP)など農業大国との交渉では、重要品目を守るため衆参農水委員会の国会決議の存在が大きかった。だが、今回の対EU交渉は、昨年末の畜酪政策価格・関連対策で出された再生産確保の一文だけだ。不安が募るのは当然である。

 官邸主導による「合意ありき」で、交渉急転の懸念が拭えない。日本側が「農業分野の交渉は難航」を強調する一方で、EUの農相に当たるホーガン農業担当欧州委員が出身地アイルランドでのメディアとの会見で、「決着間近」との見通しを示しているのも気掛かりだ。“水面下”で交渉は相当進展しているとの疑念も強まる。

 大枠合意の内容次第では、新たな枠組みとして今後のTPP交渉や日米協議へと波及することが必至だ。つまり、日EU交渉が他の通商交渉に連動していく。日本側の農畜産分野での妥協は「自由化ドミノ」となりかねない。貿易交渉を担当する米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は既に、上院財政委員会の公聴会で米国の貿易赤字解消へ「日本は牛肉などの分野で一方的に譲歩すべきだ」と具体的な関心品目を挙げながら、一層の対日攻勢を強調した。

 安倍首相は24日、神戸市での講演で日EU交渉に関連し「来月、大枠合意できるよう最終的な調整を急がせる」と明言。早期合意の時期をあえて区切った。しかも、大筋合意に比べ合意内容のレベルが落ちる大枠合意の言葉をあえて使い分けた。成果を急ぐ官邸の思惑が見え隠れする。内閣支持率低下が顕著となる中で、耳目を集め、再び政権の浮上を狙う政治的判断が働いているとの指摘もある。「前のめり」の姿勢が市場開放への呼び水にならないか。首相は「重要品目の国境措置堅持が大前提である」と明言すべきだ。

 大きなヤマ場は、7月7日からドイツ・ハンブルクで開く先進国と新興国の主要20カ国によるG20首脳会合だ。その前に日EU首脳会談で、大枠合意を目指すシナリオが描かれている。日EU協議はメガ自由貿易協定を具体化することで、米国などで台頭する保護主義をけん制する狙いもある。その結果として国内農業が犠牲になるのは全く間違いだ。安倍政権は食料自給率が39%と先進国最低の実態を直視し、自給率と自給力の底上げにこそ目を向けるべきだ。

【関連記事】 見出しをクリックすると記事が表示されます。

27日付1面「[緊迫 EPA] チーズ ハードチーズも競合・・・」

おすすめ記事

論説の新着記事

検索

e農サーチ e農サーチとは