日欧EPA首席交渉官 農水省 WTOで因縁 特別編集委員 山田優

 フランスのブルゴーニュを3月初めに訪れ、地元ワインの普及団体「ブルゴーニュ・ワイン利き酒騎士団」の本部で話を聞いた。シャトーに置かれた写真集に見慣れた顔を見つけた。外務官僚の鈴木庸一氏が、真っ赤な騎士団のマントをまとい満面の笑みを浮かべていた。

 鈴木氏は2013年にはフランス語に強い外務官僚にとって最高のポスト、フランス大使に就任。16年には退官待ちのポストといわれる関西担当大使に横滑りした。「官僚としてのキャリアはおしまい」と見ていたが、3月7日の閣議で、日欧経済連携協定(EPA)交渉の首席交渉官を兼務することが決まった。

 「鈴木復活」に一番驚いたのは、たぶん農水省だ。同省と鈴木氏の間には因縁がある。

 鈴木氏はちょうど20年前にジュネーブの日本政府代表部公使になり、その後、外務省経済局長を務めた。当時、WTOなどで繰り広げられた経済交渉の場で、鈴木氏は日本の外務官僚としては型破りの才能を発揮した。WTO農業委員会のトップになったり、パネル裁定の判事を務めたりした。在ジュネーブ外交団の中でも、一目置かれる存在だった。

 鈴木氏の下でしばらく働いた経験を持つ民進党の緒方林太郎衆院議員は言う。

 「外務省であの人ほど経済交渉に詳しい人はいない。有能で大胆。ただし、一匹おおかみ的なところがあり、自分だけで話を進める時もあった。鈴木さんのWTOでのトリッキーなやり方を農水省は嫌がっていたと思う」

 農水省の元幹部も「彼は農業に詳しい。WTO農業交渉で何かおかしな動きがあると『鈴木が仕掛けたのでは』といううわさがいつも流れた」と振り返る。当時の日本の経済交渉は、農業分野は農水省が仕切るのが当たり前。農水省にとって有能過ぎる鈴木氏は、煙たかったのだ。

 月日は流れ、日欧EPA交渉は大詰めを迎える。

 WTO時代とは大きく風景が異なる。官邸の指揮を受けた外務省が交渉の中核を担い、農水省の立ち位置は一歩下がった。そして鈴木氏は事務局トップとして手腕を発揮する立場だ。

 「日欧EPAが急速に進展したのは、自由貿易の旗を守りたい日本と欧州双方の政治の力があったから。だが、農業交渉に詳しい鈴木氏の存在も大きかったはずだ」と別の農水省OBは解説している。

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