故郷の水田耕すのは 旅人や家畜も守り手に 農業ジャーナリスト小谷あゆみ氏 

 瀬戸内海に浮かぶ小豆島を中心に、香川県ではオリーブオイルのエコフィードを利用したオリーブ牛を生産しています。オリーブに含まれるオレイン酸効果で肉の脂がさっぱりすると評判で、香川県が国内外に売り出しています。

 小豆島の隣に位置する豊島は瀬戸内国際芸術祭の舞台でもあり、アートの島として知られています。フェリーを降り立ってまず驚いたのは、若い人や外国からの観光客が何十人も列をなして島の高台に向かう姿でした。目指すは豊島美術館。丘に連なる棚田を地元住民と再生させ、その一角に建てられた美術館で、建物と島の風景が呼応する「有機的な空間」そのものがアートであるという考えです。

 瀬戸内海を見渡す棚田にはオリーブ牛の繁殖牛が通年放牧されています。棚田に牛を放つ繁殖農家の中野拍喜さんは、まさに大地を耕す芸術家。棚田牛を写真に収める観光客の姿は、島の農業や暮らしに、旅人を魅了する価値があることを示していました。

 九州大学では、「植物資源循環による次世代型牛肉生産」の中で、Qビーフを生み出しました。初期成長期における刷り込みで草食でも太る体質の牛をつくり、粗飼料による良質な牛肉生産の技術開発を目指します。耕作放棄地が活用され、輸入飼料高騰に左右されない牛肉が誕生すれば、一石何鳥になることでしょう。

 同様にこの春から、一般社団法人全日本食学会による「シェフと支える放牧牛肉生産体系確立事業」が始まりました。日本を代表する料理人と畜産専門家による取り組みで、酪農家の経営安定や、食肉の多様性を掲げ、ジャージー種やブラウンスイス種の去勢牛を放牧肥育し、熟成肉などの調理技術で新しい食と農の関係を目指します。既に東京・八丈島や栃木県、岩手県などで放牧が始まっています。

 人口減少時代、島しょや中山間地から荒廃が始まるのはあらがえない現象です。それでも私たちにできることは何か。先日、参加した棚田学会では、農泊やかかしアートで都市住民と深くつながる新潟県十日町市や長岡市の報告がありました。

 NHKの朝ドラ「ひよっこ」でお父さんの失われた記憶を呼び覚ますのは故郷の水田でした。この国の象徴である水田の存続に、どうしても限界があるならば、耕すのは、旅人か、家畜か。多様な主体を視野に耕し続けるしかないのではないでしょうか。掘り起こした先に希望は見つかるはずです。

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