オランダは手本か 再輸出や環境 課題に 特別編集委員 山田優

 3年前の春にオランダを訪問した安倍晋三首相は、効率的な農業にいたく感銘したらしい。その年の秋にイタリアで開いた会合で、東日本大震災の復興で「オランダの高度な栽培技術を取り入れ、日本では全く新しい農業のビジネスモデルに取り組む」と宣言した。

 昨年のオランダの農業輸出額は850億ユーロ(約10兆円)で、九州ほどの大きさの小国ながら米国に次ぐ2番目。首相が掲げる攻めの農業が目指す1兆円の10倍に相当する。確かに立派な数字だ。

 しかし、数字に目を凝らすと、もう少し違う風景も見えてくる。

 オランダの農業輸出の77%は欧州連合(EU)域内向け。多くが隣国ドイツに向かう。国境検査も関税もなく、愛知県の産地が首都圏出荷するのと違いはない。日本と「輸出」の概念が違うのだ。それでも2割強はEU外に輸出される。

 輸出額で一番大きいのは花きで、食肉、乳製品・鶏卵、野菜と続く。「さすが最先端の園芸王国」と恐れ入るのは早い。実はオランダの花き生産自体は伸び悩む。低コストのアフリカや南米から大量輸入したバラやカーネーションを、他の欧州諸国に再輸出する分が少なくない。日本に置き換えれば、台湾から花きを輸入して、米国に再輸出するようなものか。

 「鶏卵輸出額は世界一。食肉や乳製品は競争力が強いぞ」という声が聞こえてきそうだ。だが、畜産も構造的な弱みを持つ。オランダは中国に次ぐ世界第2位の大豆輸入大国で、飼料原料の多くを海外に頼る。

 オランダの田舎を歩くと、あちこちで畜産ふん尿の臭いがする。小さな国土に大量の栄養分を輸入し畜産を拡大した結果、農地に過剰な窒素やリンが蓄積した。EUの環境規制を今年末まで達成する必要があり、一気に数十万頭の牛を「処分」しなくてはならないという報道もあった。EUや経済協力開発機構(OECD)によると、オランダの効率的な農業生産の追求は、一方で農地の生き物など生物多様性を犠牲にしてきた。決して優等生とは言えない側面があるのだ。

 隣の芝生は青く見える。高い生産性や経営の手法など、オランダ農業に学ぶところはある。しかし、国土や環境、歴史の違いで農業は大きく異なる。外国まで出掛けて「オランダのまねをするんだ」と胸を張る首相の農業観とは何なのだろう。

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