農作業事故の撲滅 “福祉”視点で農村整備

 秋の農作業安全確認運動が始まった。農家の高齢化が進む中、いかに安全に作業を進めるかは最も重要な問題だ。1日平均1人が事故で亡くなる現実を繰り返さないためにも、万人に優しい「ユニバーサル農業」の構築が必要だ。

 60歳以下を基本として法律や基準などが整備されている労働現場に対し、60歳以上が主流を占める農業現場は作業環境が大きく違う。そこで提案したいのが「農業=福祉」という考え方だ。高齢者が働きやすいバリアフリーの農村環境を整備すれば、女性や障害者など万人が働きやすくなる。

 農水省によると、2015年に農作業中の死亡事故で亡くなった65歳以上の割合は84%。このうちトラクターなど農業機械による事故が6割を占める。もともと人的ミスを起こしやすい高齢者が農業を担っている現実が浮かび上がる。この実態を踏まえた対策を打たない限り、事故は減らない。農業現場では労働現場と違う独自の法体系、安全策が欠かせないゆえんだ。

 導入すべきは「農業福祉」という考え方だ。少子高齢化が進む中、誰もが農業を担えるようにするためには、急な傾斜地をなだらかにしたり、段差を取り除いたりして農村のバリアフリー化を進める必要がある。

 事故の事例収集と現地調査を進める宇都宮大学の田村孝浩准教授は「人と機械への対策と同時に、これまで看過されてきた作業環境に対する視点と対策が必要だ」と指摘する。省力化を求めて大型農機を導入しても、農道の傾斜がきつい上、道も狭く環境と機械にミスマッチが生じ、脱輪や転倒事故に発展した事例もあるという。

 他産業以上に農業現場では人手不足が深刻化している。規模拡大と法人化が進む中、安定した雇用を確保することは喫緊の課題だ。実は、ここにも農業福祉の考え方は欠かせない。誰もが安心して働ける場をつくることは農家のいのちを守るだけでなく、会社をリタイアした都会人や女性、障害者、外国人研修生、学生ら多様な担い手を農山村に呼び込むための強みとなるはずだ。

 農の持つ可能性は計り知れない。富山県農村医学研究会は中山間地域で暮らす二つの集落の老人会の協力を得て、農作業を続けることで日常生活機能(ADL)の維持や認知症、うつの予防に効果があるかどうかを調査したところ、農作業に意欲や生きがいを持っている人の方が、ADLを維持し認知症やうつになりにくいことが分かった。高齢社会の課題を解決する鍵は農村にあるといえる。

 富山県厚生連の大浦栄次健康福祉アドバイザーは「農業農村は青空デイサービス施設だ」と指摘する。農に可能性を感じ、回帰する動きが各地で芽生える中、農業でいのちを落とすことがあってはならない。誰もが暮らしやすい農村整備が求められている。

おすすめ記事

論説の新着記事

検索

e農サーチ e農サーチとは