吉村 和真さん(京都精華大学マンガ学部教授)  料理マンガ時代に影響 「実学」農業にかなわない

吉村和真さん

 ンガが時代の食に影響しているのは確かです。1970年代には、『包丁人味平』のように料理人が主人公のマンガが登場し、80年代に入ると『美味しんぼ』と『クッキングパパ』が登場しました。『クッキングパパ』は今でも続いています。2000年代に入ると、料理マンガはものすごく幅が広がり、B級グルメのレポートのような作品も増えてきました。食べるという行為自体がマンガの素材として面白いし、読者の癒やしにつながっています。

 2010年代では、グルメマンガを出していない出版社はないほどまで拡大し定着しています。多くの読者が料理や食についての知識をマンガから得ています。食のスタイルや流行もマンガと一緒にあると言ってもいいぐらい、影響は大きいです。

 マンガ研究は、オタクとは違います。マンガに詳しいとか、マンガの歴史だけを追っているわけでもありません。マンガという存在が人にどのような影響を与えるのかについて考えています。マンガが世の中に普及する前と後では、人々の暮らしがどう変わったか、価値観や思想にどのように影響しているか。近年では、世界にマンガの人気が広がっている中で、マンガ的価値観もグローバル化してきています。その価値観の中にどのような特徴や偏りがあるのか、2次元表現の一つであるマンガがあふれている社会で生きている人たちの特徴を捉えることは、とても重要です。

 県飯塚市にある実家は、祖父の代までは専業農家でした。父は兼業でしたが、75歳になった今でも1町2反の田んぼで営農しています。僕も高校時代まではいろんな手伝いをしました。

 大学時代は熊本にいて、その後京都に来たので、長男ですが家を離れています。仕方がないとは思いながらも、申し訳ないという気持ちが心の根っこにずっと引っかかっています。地元の人には大学でマンガの研究をしていると言っても、何をしているか分からない。漫画家だと思われていたこともあります。

 マンガ研究という僕の専門は「虚学」です。何かを作り出しているわけではない。僕にとっての「実学」は農業です。どこまでやってもきりがないが、そのことに価値があり、当たり前に続けられる安定感。それが僕らの「虚学」を支えています。

 自分で自分が食べる物を作る、理屈なく毎日田んぼに入り、作物と向き合い、日々の天候を受け入れて生きる。そうして初めて一人前だと言われる中で、自分はマンガ研究をしていることが申し訳ない、恥ずかしいとずっと心に引っかかってきました。

 しかし一方では、マンガ研究者はその感覚を持っていなければまずいとも思っています。これまでは制度的なマンガ研究という学問領域はなく、好きなやつがやっているだけだろうと思われていました。「何でマンガなんか研究しているの?」と思うのは、普通の感覚です。むしろその問いかけがなければ、マンガの研究者は学問的にはどんどん堕落するでしょう。「何でそんなことをやらなきゃいけないんだ?」という問いに対して、きちんと説明できる準備をして、心持ちを鍛えておかないといけない。そこもマンガ研究の面白さです。

 僕に「何でそんなことをやっているんだ?」と一番多く聞いてくれたのは、地元の人たちです。それは「なぜお前がここを離れなきゃいけないんだ?」という問いと重なっているんです。(聞き手・写真 ジャーナリスト・古谷千絵)

 <プロフィル> よしむら・かずま
 
 京都精華大学国際マンガ研究センター教授・副学長。専攻は思想史・マンガ研究。日本のマンガ研究をけん引する。著作・論文を多数執筆する傍ら、日本マンガ学会や京都国際マンガミュージアムの設立など、人が集う場づくりにも尽力。同ミュージアムでは「クッキングパパ展」を開催中。46歳。 

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