総選挙と農政 強引な政治手法問う 一橋大学大学院教授 中北 浩爾

中北浩爾氏

 安倍内閣によって衆院が解散された。大部分の政治家にとっても、主要なメディアにとっても、「不意打ち」解散であった。孫子の兵法には「その無備を攻め、その不意に出ず」とあるぐらいだから、有利に戦うための当然の戦略を取ったにすぎないとも言える。
 

仕事人看板倒れ


 だが、今回はそれで済まされない。なぜなら安倍晋三首相は2カ月ほど前の内閣改造の際、森友学園や加計学園の問題にも言及しながら、「謙虚に、丁寧に、国民の負託に応えるために全力を尽くす」と述べていたからだ。「仕事人内閣」と銘打った改造内閣がほとんど何もしないうちに解散を断行したのだから、うそつきと言われても仕方がない。

 しかも、野党が憲法53条に基づき臨時国会の召集を要求したにもかかわらず、98日間も放置した末、所信表明演説もなしに、解散に踏み切った。これで安倍首相が勝利を収めれば、政治は何でもありの世界になってしまう。まさに「無理が通れば道理が引っ込む」ということだ。

 総選挙は、有権者が政権の過去の実績を評価しつつ、各政党の政策を比較し、次の政権の枠組みを決める機会である。しかし、この「不意打ち」解散の結果、各政党が十分な準備なしに選挙戦に臨むことになる。民主主義にとって決して望ましいことではない。

 2年10カ月ぶりの総選挙では、農政に関しても問われるべきことが数多く存在する。2015年から16年にかけて、JA全中を一般社団法人に移行させ、地域農協への指導・監査権限を廃止し、JA全農に農産物の販売強化と購買事業の効率化を求めるといった農協改革を決定した。

 また16年、安倍政権は環太平洋連携協定(TPP)に調印し、国会で批准を行っている。肝心の米国がトランプ大統領の就任で離脱したため、TPPは行き詰まりをみせているが、現在もなお米国抜きの発効を目指す動きが続いている。

 安倍政権は、農協改革について規制改革推進会議を用いたトップダウンで推進し、TPPに至っては、12年の総選挙で反対を掲げながら、政権の座に就くと交渉に入ったという経緯がある。安倍首相の強引な政治手法が最も顕著なのが、農政なのである。
 

改革の加速懸念


 今回の「不意打ち」解散・総選挙に安倍政権が勝利を収めた場合、農政に何が起きるであろうか。農協改革やTPPへの参加が国民に信任されたと公言し、それらを加速することは、火を見るよりも明らかである。

 小池百合子知事が台風の目になっているため、メディアの注目は都市部に向きがちである。だが、前回の参院選の1人区では、野党が東北・甲信越で勝利し、自民党に衝撃を与えた。今回の総選挙でも、農村部から目を離せない。

<プロフィル>なかきた・こうじ
 1968年、三重県生まれ。東京大学法学部を卒業後、立教大学法学部教授などを経て、一橋大学大学院社会学研究科教授。政治学が専門。著書に『自民党―「一強」の実像』(中公新書)、『現代日本の政党デモクラシー』(岩波書店)など。

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