「攻めの農業」弊害 食料安保 確保できぬ 資源・食糧問題研究所代表 柴田 明夫

柴田明夫氏

 夢を語るのはよいが、かなり乱暴な議論だと思えた。日本経済調査協議会が今年5月に公表した「日本農業の20年後を問う」のことだ。2015年3月から2年にわたる研究会の成果である。

 農業就業者の高齢化や後継者の減少、耕作放棄地の増加に歯止めがかからない一方、IT化が農業にも異次元の進歩をもたらそうとしている。未知の世界に対応するには、日本農業にも不連続な対策が必要との認識だ。特徴は、フロンティアに立つ農業者の支援であり、政府が昨年11月に策定した「農業競争力強化プログラム」と符合する内容と言える。
 

自給率39%割る


 こうした中、農水省が8月9日に発表した16年度の食料自給率は、カロリーベースで38%となり、6年間維持してきた39%を割り込んだ(政府目標は45%)。

 食料自給率とは、国内で消費される食料のうち、国内で生産されたものの割合である。もともと自給率が高く、国内供給熱量の5割以上を占める米の消費量が長期低落傾向にある一方、自給率の低い小麦の消費量が拡大。天候不順により北海道のテンサイなど砂糖類の国内生産が落ち込んだことが要因とされる。果たしてそれだけか。今後、食料自給率はさらに低下してゆく可能性はないか。

 日本の食料自給率は1965年度の73%からほぼ一貫して低下し、10年度以降は39%で推移してきた。今回の38%という数字は、統計史上最低であった93年の37%に次ぐ低水準だ。23年前は、冷夏と長雨により東北地方を中心に米の作況指数が74にまで落ち込み、約200万トンの供給不足が発生。「平成の米騒動」と呼ばれる深刻な事態が生じた。政府は急きょタイや中国などから約260万トンの緊急輸入措置を講じた。

 当時の自給率低下が「天候不順」という明確な理由があったのに対し、今回はむしろ日本農業の生産基盤の弱体化が止まらないという、構造的な問題によるものと言えよう。危惧されるのは、アベノミクスの「攻めの農業」が、市場経済化の考え方の下、農地や種子などの資源に加えて、長い歴史の中で培われてきた生産流通制度など、本来市場で商品化されてはならない「社会資本」までを、商品化の対象としていることだ。そもそも市場経済は、「農業・農村社会の安定」を基礎に持たなければスムーズに機能しない。
 

家族経営が大事


 確かに、日本の農業はこの10年間で激変した。農家経営体数137万7000のうち、家族経営体は134万4000で32%減少する一方、組織経営体は3万3000で17%増加。農地面積に占める法人経営の割合は2・5%から7・2%に高まった。

 しかし、圧倒的多数を占めるのは依然として経営面積10ヘクタール未満の家族経営である。食料の潜在生産能力を示す食料自給力指標が低下傾向で推移する中、大規模で生産性の高い特定の農業者(担い手および法人)に政策の対象を絞り込もうとする「攻めの農業」では、個別経営の立場からは正論であったとしても、日本の食の安全保障を確保することはできない。

 <プロフィル>しばた・あきお 
 1951年栃木県生まれ。東京大学農学部卒業後、丸紅に入社。丸紅経済研究所の所長、代表などを歴任。2011年10月、(株)資源・食糧問題研究所を開設し、代表に就任。著書に『食糧争奪』『食糧危機が日本を襲う!』など。

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