獣医学部新設 過程・内容 徹底検証を

 学校法人加計学園が申請していた獣医学部の新設を認める答申が出た。52年ぶりの大きな方針転換となる。国家戦略特区を使った決定過程に官邸などの関与はなかったのか。獣医師の偏在解消や獣医療の質的向上につながるのか。疑念を残したまま見切り発車してはならない。

 文部科学省の大学設置・学校法人審議会が認可を答申した。加計学園が運営する岡山理科大の獣医学部(愛媛県今治市)が来年4月、開学の運びとなった。獣医学部の新設は1966年の北里大以来となる。

 政府は需給均衡の観点から、獣医学部新設や定員増を認めてこなかった。約半世紀ぶりに転換する以上、合理的な理由と根拠を示し、今なお残る疑問に答えるべきだ。論点は二つ。一つは決定過程の正当性、もう一つは開設自体の妥当性である。

 新設に至る過程で、首相官邸など行政の介入があったのか。それとも国家戦略特区というトップダウンの制度を使ってゆがめられた行政を正したのか。その解明がまだ進んでいない。

 特に特区での獣医学部新設に関し、内閣府から文科省に「総理のご意向」などと伝える文書の存在が明らかになったが、個人のメモと片付けていいのか。加計学園理事長は安倍晋三首相の「腹心の友」である以上、行政側に「忖度(そんたく)」が働く余地は本当になかったのか。国会審議では記憶にも記録にもないという答弁が続き、多くの国民は納得していまい。しかも臨時国会冒頭解散である。これで疑念に幕引きでなく、今国会で審議を尽くすべきだ。

 獣医学部新設の妥当性はどうか。政府は2015年、獣医学部新設の条件として、既存の獣医師養成でない構想を持ち、生命科学など新たな分野で具体的な需要があることを閣議決定した。こうした条件に合致しているのか検証すべきだ。また獣医師の需要動向を考慮するとあるが、140人の定員規模はそれに反しないのか。さらに特区の目的である「産業の国際競争力強化」「国際的な経済活動拠点の形成」に沿っているのかの説明も必要となる。大学設置審でも運用面で多くの改善意見が出たが、開設に伴う本質的問題の解明は国会の役目だ。

 安倍首相は、今回の獣医学部新設を突破口に特区での全国展開に意欲を見せるが、筋違いも甚だしい。問題は数ではない。現状ではペット偏重で、家畜防疫などに当たる公務員獣医師は1割にすぎない。地域や職種の偏りを正し、公務員獣医師らの待遇改善、産業動物医の育成、学卒者の地元定着への支援強化こそが喫緊の課題だ。日本獣医師会や日本獣医学会などが懸念するように、乱立に伴う教員不足や教育内容の質の低下を招くことがあってはならない。

 家畜の診断・治療、防疫、改良など獣医師に寄せる現場の期待は大きい。それだけに政府には情報公開と説明責任を果たすよう強く求める。

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