所信表明と農政 信頼回復へ有言実行を

 これまでで最も短い所信表明演説だったが、農業のウエートは比較的大きかった。安倍晋三首相は農業者の不安や懸念にしっかり向き合うと明言した。言行一致を注視する。農政に今求められるのは、改革成果の空疎な宣伝ではなく、生産現場の声に耳を傾け、信頼を基に築き上げた改革ビジョンとその実行・前進である。

 第4次内閣のスタートを切る所信表明では、先の衆院選で大勝した高揚感を封印した。憲法改正にも踏み込まなかった。公約の確実な実行や、与野党の枠を超えた建設的な議論の呼び掛けなど、丁寧に政権運営に当たる姿勢が目立った。国民は政治を白紙委任したわけではない。「謙虚・丁寧」を貫けるかが政権浮沈の鍵を握る。

 政策的には、衆院選で前面に出した北朝鮮への圧力強化や、幼児教育の無償化を柱とする少子高齢対策、11カ国による環太平洋連携協定(TPP)の早期発効や日欧経済連携協定(EPA)をてこにしたアベノミクスの加速化、災害対策に重点を置いた。一方で、不信を招いた森友・加計学園問題には言及しなかった。今国会での大きな争点であり、幕引きを図ろうとしているとの批判は免れない。

 農政改革を「地方創生の大きな切り札」と決意を示した。農業重視の現れといえるが、一方でこの間、官邸主導による改革が農業のリスクを高め、農業関係者の不信と不安を膨らませてきた。この現実を直視し、農政の在り方を見直す時だ。透明な政策プロセスと公平な議論を担保し、農業関係者の参加意識と納得感を高めなければ、改革施策は生産現場で実を結ばない。

 7月まで農水省の食料・農業・農村審議会会長を務めた生源寺眞一福島大学教授が、興味深い見方を農政ジャーナリストの会の講演で披露している。規制改革推進会議など官邸の諮問会議が主導した数々の改革について「責任の所在や政策の形成過程をトレース(追跡)できるのか」。さらに「農業界より国民に成果を喧伝(けんでん)する姿勢が非常に強い」と疑問を呈した。まっとうな指摘である。農業関係者に膨らんだ「官邸農政」への不信と警戒感はそこに起因する。

 多様な地域農業と農業者が相手の政策は、現場の信頼と協力なくして現場に浸透しない。昨今、農業がうまくいかないのを制度政策のせいにして、政策いじりと規制をなくしたがる“疾病”がはやっている。短期で改革の成果を現場に求める傾向も強い。改革の必要性は否定しないが、現場起点の意識が薄れているのは問題である。

 当面の農政課題は日欧EPA国内対策や2018年産からの米生産調整転換への対応、卸売市場法見直しなどである。「安心して再生産できるよう、十分な対策を講じる」とした安倍首相の発言を具体的な形にしなければならない。結論と決定プロセスを注目する。

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