これからの政治報道 恒常的調査と検証を 食と農の政策アナリスト 武本俊彦

武本俊彦氏

 先の衆院選での自民党大勝を受けて安倍晋三首相は第4次安倍内閣を発足させた。新聞の社説などを見ると、政権運営について「謙虚に」「真摯(しんし)に」「丁寧に」といった言葉が並ぶ。そうだろう。これまでの2回の総選挙とその後の対応を思い出せば、およそ逆の行動を取るに違いないと多くの人々は危惧しているのだ。特に今回は、憲法第9条を含む改憲に取り組むと明言しているのだからなおさらだ。
 

続く「安倍1強」


 どうして同じことが繰り返されるのか。「安倍1強」は、1990年代に「決められない政治」から転換を図るためにとられた一連の改革の結果にほかならない。すなわち、政権交代が可能になるよう小選挙区比例代表並立制の導入、内閣官房の機能強化、幹部公務員人事の一元化を含む公務員制度改革などである。

 これらの改革後に誕生した安倍政権には、二つの前提条件が必要だった。一つは権力への自己抑制と少数意見への尊重という見識のある政治家が総理大臣になること。そうした政権の姿勢を担保するためにも政府の政策に対する対立軸を明確にした政策体系を装備した反対勢力の存在である。

 しかし、不幸なことに両方の条件を欠いたまま政治主導の内閣が動きだしたのだ。有権者にとって選択肢たり得る反対勢力の存在が死活的に重要であったのだが、今回の選挙でも政権を託せる政治勢力が存在しなかったということだ。何が求められているのか。

 まず、安倍政権が進めようとする方向に反対する勢力は、それぞれ現場に入って地域の人々の声をすくい上げて検討し、それを現場に戻していく。これを繰り返して真に求められている政策体系を構築することである。時間と労力を要するが、これを愚直に行っていくことが政権獲得にとって最も確実な道である。

 そうした政治勢力の動きに対して、日本農業新聞をはじめとするメディアはこれまでのように安倍政権の政策評価を選挙の直前に行うべきではない。これからは各般の政策について恒常的に調査と検証を行うべきだ。例えば、脱デフレも財政再建も実現しないまま格差拡大をもたらすだけの「アベノミクス」を再稼働させていいのかどうか。
 

国民の参画促せ


 農業は、人と土地という根源的な生産要素を中心とする。

 このため、産業としての性格と地域性の両面を併せ持つ。この両面性を踏まえて農政を企画立案すべきなのだが、「効率性だけの観点からの改革」では現場を混乱させるだけではないだろうか。

 野党の対案も求めていくべきだし、農業者をはじめ地域の生活者の評価という形で国民の参画を促していくべきだろう。

 つまり、政治と地域の人々との恒常的なコミュニケーションを、社会の公器である報道機関が媒介していくことが何よりも求められている。
 

<プロフィル>たけもと・としひこ


 1952年生まれ。東京大学法学部卒、76年に農水省入省。ウルグアイラウンド農業交渉や食管制度廃止・食糧法制定などに関わった。農林水産政策研究所長などを歴任。来年4月から新潟食料農業大学教授に就任の予定。

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