農村の暮らしと協同 総合事業 価値と強み 福井県立大学教授 北川太一

北川太一氏

 『JA女性読本』(JA全中・JA全国女性協発行、2003年、43ページ)に、1950年から60年代にかけて、農村女性の暮らしの様子を紹介する次のような記述がある。
 

物心両面で支え


 「眼病を招くかまどでの煮炊き、“冷え”を生む土間での仕事、体を酷使する水くみ、便所からのハエや防火用水からの蚊の発生、望まない妊娠による母体への悪影響や家計への負担など、改善すべき課題は山積みでした。このようなとき、煙を外に排出する改良かまどの作り方を学び、仲間で一斉害虫駆除や『家族計画』に取り組むなど、成果が確実に出る対策を実践する農協婦人部の活動は、多くの女性にとって魅力あるもので、加入が急速に進みました」

 暮らしが豊かになり、都市と農村での生活環境の差がほとんどなくなった現在では、想像もできないことである。

 当時の暮らしの改善活動を、農村女性と一緒になって支えたのが、農協の生活指導事業である。そこには、農協の役割は物心両面での暮らしの豊かさを実現することにある、という確固とした考え方があった。

 61(昭和36)年に開催された第9回全国農協大会の決議では、次のように記されている。

 「・・・協同組合運動の究極の目的は、人間の住みよい、より豊かで民主的な人間生活を多数の人びとの“協同”によって実現しようとするものである。我々はとかく営農改善と生活改善を並べて使うけれども、本来は生活改善が目的であり、営農改善はそのための手段である。従って農協としては、農家の生活文化の向上を目的とする活動を今後重視すべきである・・・」
 

農業所得増大は


 翻って現在、JAグループの重点課題は、「農業者の所得増大」と「農業生産の拡大」とされている。これらを実行するために、農協法が改正され、組合員の構成やガバナンス、さらには組織形態が改変されようとしている。

 果たしてそれが正しい方向であろうか? 農業経営への参入規制が緩和され、企業的な農業経営や関連事業を展開する法人も多数設立されている。「農業者の所得増大」や「農業生産の拡大」は、JAのおはこでは決してない。

 農業所得の増大を通じて豊かな暮らしをどう実現するのか、あるいは逆に、家族の暮らしや地域の課題解決を図る農業の在り方とはいかなるものなのか。そこまで見据えた事業や活動を展開することにこそ、総合農協としてのJAの存在価値がある。

 食や福祉をはじめとする暮らしの多くの問題が、今なお解決されない状態である。生活指導、くらしの活動、生活文化活動など、呼称はどうあれ、暮らしの現状を見つめ直し、地域の課題に正面から向き合うこと。まさにそれが「創造的自己改革」への第一歩である。

<プロフィル> きたがわ・たいち

 1959年、兵庫県西宮市生まれ。京都大学大学院農学研究科博士課程単位取得。2005年から現職。日本協同組合学会副会長も務める。主な著書に『新時代の地域協同組合』『協同組合の源流と未来』など。

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