経済学で語れぬ自給率 食料安保考え直そう 農林中金総合研究所客員研究員 田家 康

田家康氏

 2016年度の食料自給率はカロリーベースで前年度比1ポイント下げの38%となった。前年を下回るのは6年ぶりで、前年の米の大凶作を受けて37%であった1994年度に次ぐ史上2番目の低さだ。65年に73%あった食料自給率は一貫して低下傾向をたどっている。

 カロリーベースの食料自給率にはさまざまな批判もある。野菜や果物は、生産額が高い割にはカロリーベースの自給率に反映されにくい。輸入肥料も考慮されていないことなどが理由だ。また食料はエネルギー資源と同様に国内供給では満たせないのだから、その安全保障は輸入先の多角化で行うべきとの主張も根強い。食料自給率向上という政策は、国際貿易という経済学の考えと相いれないともいわれる。果たしてどうか。
 

多角化には限界


 食料安全保障や食料自給率の概念が定着したのは、異常気象で生じた72年の世界的な食料危機からとされる。中央アジアの低温、東南アジアやオーストラリア、アフリカの干ばつなどで世界の米や小麦が減収となり、旧ソ連が米国から大量の穀物を買い占めた結果、国際相場が高騰した。米国による大豆輸出禁止政策は日本など各国に大きな影響を与えた。

 食料安全保障とは、当時の食料供給から注目された概念であり、カロリーベースでの指標は生命維持のための基礎的な栄養価との考え方による。生産額ベースの自給率とは観点がそもそも異なる。

 原油や天然ガス、シェールガスなどのエネルギー資源は、地中や海底から採掘して輸送すればいい。地域紛争などが起きた際には、多角化は効力を発揮するに違いない。肥料も同様だ。しかし、食料の場合は世界のどこかに常に存在するわけではない。世界各国で毎年、生産しているからこそ、需要を賄えているのだ。食料安全保障は輸入先の多角化で対応するには限界があると言える。
 

気象影響は連動


 米が大凶作となった93年は、不足した国産米を補うため259万トンの外国産米を緊急輸入した。米国やオーストラリア、中国では他国との輸出契約が進んでいたため、タイ米の輸入が目立った。そして、連日のように「タイ米はおいしくない」との不幸な報道が行われた。

 実は、タイの米主要産地である中央平原では2年続けて降水量が少なく、減収が続いていた。タイの人たちは「雨期作が残っていれば、もっとおいしかったはずだ」と語り、日本での報道を悔しがったという。

 日本における米の大凶作とタイの水不足は、気象状況としては関連がある。東南アジアで対流活動が活発化し降水量が増える時、中緯度の太平洋高気圧の勢力が増して日本列島を覆う。反対に東南アジアの対流活動が弱いと、タイの降水量は減り、太平洋高気圧も東にずれて日本は冷夏になるのである。

 異常気象が地球規模で発生すると、食料生産は世界各地で一斉に減少することがあるのだ。食料とエネルギーの安全保障を同列で考えるのは誤りだ。対処方法も当然異なってくる。食料安全保障は経済学的な対応では解決できないことを肝に銘じることが必要だ。

<プロフィル> たんげ・やすし

 1959年生まれ。農林中央金庫森林担当部長などを経て、農林中金総合研究所客員研究員。2001年気象予報士資格を取得し、日本気象予報士会東京支部長。日本気象学会所属。『気候で読み解く日本の歴史』などの著書。

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