種子法の廃止 主食守る議論もっと ノンフィクション作家 島村 菜津

島村菜津氏

 東京・練馬区の古民家、季楽堂で12月16、17の2日間、「種まきカフェ」が催された。日本の種子を守る会が主催したもので、他県の農家もフェアに参加。料理家の枝元なほみさんがランチを提供し、種子の交換会も行われた。米や麦、大豆の種子の生産や普及を都道府県に義務付ける主要農作物種子法(種子法)が納得できる説明もないまま来年4月に廃止される。種子と農業の在り方について議論が必要だ。

 種子法が制定されたのは1952年。農水省は、種子法が民間企業の参入障壁になっていると廃止の理由を説明した。

 これに疑問を感じた全国有機農業推進協議会の金子美登理事長や山田正彦元農相が呼び掛け人になり守る会を立ち上げた。

 守る会が発足した7月4日は、350人が集まり感動的だった。それまで決して親密だったとは言えないような有機農家と消費者団体、農協組合長らが結集し、農家や家庭菜園主も自由に種にアクセスできる権利を守ろうと手を組んだのだ。

 種まきカフェに参加した茨城県のJA水戸の八木岡努組合長は専業農家で、JAでは5種の米と各3種の麦と大豆の種取りを行っているだけに切実な問題だと訴えた。
 

“私物化”に懸念


 龍谷大学の西川芳昭教授は、種子法廃止で、公的資金の支えによる品種育成がなくなれば、現在300種ある各地の米には消えるものが現れ、民間による種の私物化が進むのではと懸念する。

 多国籍企業が、花粉症の症状を低減する米など遺伝子組み換え米の開発を進めている。これに対して、インドの環境活動家のヴァンダナ・シヴァ博士は企業による種子の独占や支配に異論を唱えている。ヴァンダナさんたちは種取り農園を営んでおり、2003年に訪れた時のことを思い出す。彼女は当時、ビタミンAを豊富に含む遺伝子組み換え米の開発者と論争中だった。
 

なお各地で論争


 彼女は、遺伝子組み換え米に反対。遺伝子組み換え米の画一的な圃場(ほじょう)のため、畔の薬草がなぎ倒され、大勢のインドの子どもたちの健康が脅かされていると語った。リンゴ一つ食べれば済むという論争も繰り広げた。栽培したものの収量が思わしくなかった農家の自殺も社会問題化したという。

 重いがんから遺伝子組み換えによる新薬で回復した知人も身近にいる。組み換え技術そのものを否定する気はない。だが、それを食べた虫が死ぬような野菜が人体や環境に負荷をかけないと証明されたとしても、農業への大企業の管理が強化されるシステムにどうも賛同しがたい。あれから十数年、遺伝子組み換え米は新天地を求めてフィリピンなどアジア諸国に進出し、同様の議論を巻き起こしている。

 米は、日本で唯一100%自給できる主食だ。パンにパスタと粉ものが人気の今、小麦粉も第二の主役なら、小豆も和菓子の主役だ。種子法と聞いても「種のことは農家の問題」と脇に置く人も多い。

 だが、それは大間違いだ。種子法はアジアの私たちとって死活問題の「主食法」なのだ。子育て世代にまで、種子と農業の在り方について活発な議論が必要である。

 <プロフィル> しまむら・なつ
 
 1963年福岡県生まれ。東京芸術大学卒。ノンフィクション作家。イタリアのスローフード運動を日本に紹介した先駆者。著書に『スローシティ』『生きる場所のつくりかた~新得・共働学舎の挑戦』など。

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