この一年・通商 「米国第一」日本を翻弄

 「米国第一」を掲げるトランプ大統領の登場に世界が翻弄(ほんろう)された一年である。日本もその渦に引きずり込まれた。だが、まだ序の口にすぎない。対日貿易赤字の解消圧力は来年もっと強まり、結果を迫られる。警戒警報は続く。

 メキシコ国境に壁が築かれることはなかったが、通商政策では公約が実行された。最優先した北米自由貿易協定(NAFTA)の改定に向けカナダ、メキシコとの修正協議に着手。米韓FTAも渋る文在寅大統領に再協議をのませた。韓国は日本と同様、自動車を中心に巨額の対米貿易黒字を稼ぎ出している。先行する二つの協議の行方を注視しよう。

 環太平洋連携協定(TPP)からの離脱も、ためらうことなく実行した。トランプ氏が署名した大統領令は「永久離脱」だ。強い政治的な意思だが、日本政府は軽く見ていた節がある。米国の復帰にこだわり続け、そのもくろみが外れても、いまだに通商政策の基軸に据えている。願望ともいえる、この見通しの甘さは国益を損なわないか。冷静な検証が必要だ。

 米国の脱退によって、アジア太平洋地域で中国に対抗する自由貿易圏をつくるとしたTPPのメッキははがれたと言わざるを得ない。米国抜きのTPP11の国内総生産(GDP)は世界の13%にすぎず、そのうち4割強が日本だ。しかも日本に次ぐ経済規模のカナダが、TPP11にとどまるのか微妙だ。結果的にみれば、“並”の自由貿易圏のために過度の農業自由化の代償を払ったことにならないか。

 米国第一主義は、皮肉にも別のメガ貿易自由化協定を生み出す要因になった。日欧経済連携協定(EPA)である。世界的な保護主義の台頭に日欧で対抗するとして、停滞していた日欧交渉が加速した。先進国・地域同士の巨大自由貿易圏は世界のGDPの3割を占める。懸念されるのは、欧州が得意とするソフト系チーズでTPPを上回る市場開放を受諾したことだ。品質・安全性、ブランド力に優れた欧州農業は重大な脅威である。TPP以上の秘密主義で交渉が進行したのも問題だった。

 一方、TPPに代わる日米経済対話は大きな進展がないまま、来年に交渉を持ち越す。日本政府は消極的だが、この経済対話がトランプ氏の言う2国間貿易協定にじりじり進んでいる気配がある。

 米国は来年が議会の中間選挙の年で政治の季節を迎える。日本への要求のハードルが上がり、貿易摩擦の激化が懸念される。業界団体は農業団体を筆頭に、TPP離脱で失った成果の代償を求め、2国間貿易交渉入りと早期の妥結を強く求めている。北朝鮮の核ミサイル問題を抱え、安倍晋三首相のトランプ大統領への過度とも見える配慮が目立つ中、交渉に入るのは極めて危険である。日本農業の「底」が抜けるような自由化を受け入れてはならない。 
 

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