[持続可能未来] 国と農の在り方 世界の潮流 再生へ一歩

 日本が近代国家に歩みだす明治維新から150年。改めて、この国と農の来し方を振り返り、今と未来を見詰める時である。われわれは歴史の転換点に立つ。

 太平洋戦争終結までの国づくりが「富国と強兵」とすれば、敗戦から今日までは「成長とグローバル化」と言えよう。そして、これからは人口減による国の規模縮小という未曽有の時代を生きる。今までの物差しは通用しない。新たな価値観に立つ国づくりと農の在り方が問われている。

 そのヒントとして「持続可能性=サスティナビリティー」を考えたい。

 欧米発の言葉なので取っつきづらいが、平たく言えば「長持ちする」、子どもや孫の世代に「つないでいける」という意味になる。今、欧州の農業者にどんな農業を目指しているのかと尋ねると、「大規模で稼げる農業」という回答は少ないだろう。「持続可能な(サスティナブル)農業」と返ってくるはずだ。
 

SDGsへ行動


 そんなサスティナブルな世界の実現を目指し、国連が2015年、「持続可能な開発目標」(SDGs)を定め、各国が行動を始めた。注目したいのは、この潮流である。

 環境破壊や貧困、格差拡大といった問題を乗り越え、住みよい社会をつくろうとの思想が根底にある。30年までに達成する目標として、①貧困をなくす②飢餓をゼロにする③全ての人に健康と福祉を④質の高い教育をみんなに――といった17項目が並ぶ。

 これは発展途上国の話ではなく、先進国を含めた行動である。フランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏が指摘するように、格差と対立を拡大するグローバル資本主義の「危機の中核」は先進国にこそある。この経済システムを世界に“普及”してきた2トップの米国はトランプ大統領の「自国第一主義」、英国は欧州連合(EU)離脱と、歴史的な転換期の渦中にある。日本でも格差や若者の貧困が深刻化している。

 「持続可能性」という考えは、相互扶助を理念とする協同組合と親和性が高い。既に日本の協同組合は「誰ひとり取り残されない」をスローガンに動きだしている。国連食糧・農業機関(FAO)親善大使を務めるキャスターの国谷裕子さんはJA全国4連の共通企画で「JAの活動はSDGsが掲げる『飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する』という目標につながっています」と指摘する。

 これからの農をどう描くか。新たな国際潮流から捉え直す必要がある。
 

気が付けば38%


 農業150年は国のありようとともに変遷した。まず、近代国家の膨らんだ胃袋を満たす食料確保が至上命題だった。国内の農地は限られ、食と資源を求めて大陸に進出。そして中国や欧米との衝突の末の破局――。戦後は農村民主化から再出発し、生産性向上と農地開拓で再び増産にひた走った。農村から大都市への人口移入は高度経済成長を支える半面、深刻な過疎化をもたらした。豊かになると食の洋風化が進み、米の消費減と輸入依存に拍車が掛かる。

 気が付けば、食料自給率38%の国へ。高齢化と後継者不足で生産基盤の劣化が進行する。農業の持続可能性が脅かされている。

 われわれの耳に今、聞こえてくる政治の言葉は明るく、勇ましい。「農業の成長産業化」「環太平洋連携協定(TPP)はチャンス」「岩盤突破」。太宰治は戦時中、「アカルサハ、ホロビノ姿デアラウカ。人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ」(『右大臣実朝』)と書いた。危機は深まっているとみるべきだ。
 

周回遅れの改革


 残念ながら、安倍政権が進めてきた農政改革は、グローバル資本主義への懐疑という世界の変化とは逆の方向に向かっている。農政は大きく変質した。二つ指摘する。

 一つは食料安全保障。「世界の食料需要は拡大し需給は逼迫(ひっぱく)する」という従来からある見通しを基に、安倍農政は全く別の論理を組み立てた。以前は「過度の輸入依存は危険。国内生産の増大で食料の安定供給を図る」だった。これを「国内市場は人口減で縮小。世界の拡大する食料マーケットを取り込む」に変換した。輸出チャレンジはいいが、食料の安定供給という理念が大きく後退した。

 もう一つは農業主体像の変化。農業者は自由な経営を行うのが「あるべき姿」だという。その環境整備のために、自由な経営を阻害するとして、有効に機能する法制度、規制をも次々と改廃した。国の関与も極力減らす。その上でTPP11や日欧経済連携協定(EPA)というスーパー自由貿易の推進である。

 まるで世界の潮流から周回遅れで新自由主義のアクセルを吹かすようなものである。

 SDGsの前身、ミレニアム開発目標の策定に関わった米国の経済学者、ジェフリー・サックス氏は、人類が直面する危機を市場原理主義が解決することはないとし、持続可能な経済への「世界共通の団結心」を呼び掛ける。

 農業は地域や暮らしと不可分で多面的価値を持つ。その再生に向けた一年としたい。

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