「持続可能未来」 つながる力 ムラから始まる世直し

 「新しい農村」づくりが始まっている。グローバル経済と対極の小さなムラの経済が芽吹く。近代化が「向都離村」の歴史なら、田園回帰のうねりは「向村離都」の幕開けを告げる。競争、浪費、分断、格差の負の連鎖を断ち切り、共生、循環、持続、自立の社会を目指す時だ。求められるのは「包む力」「つながる力」「続く力」。農村がその力を磨けば、この国の未来は変わる。

 まず刷り込まれた言説を疑ってみよう。少子・高齢化で約半数の市町村が近い将来消滅すると言われた。本当か。「限界集落」で挙家離村は進んだか。

 実は過疎自治体の4割、327市町村で30代の女性が、5年前に比べ増えている(2015年)。しかも条件不利地の烙印を押された山間部や離島ほど健闘している。瀕死のはずの農村から再生の胎動が聞こえてくるのだ。

 データを公表した「持続可能な地域社会総合研究所」の藤山浩所長は、それを「縁辺革命」と呼ぶ。人口減に歯止めをかけ、定住化を促すため、1%の人口と所得を地域に取り戻す「1%戦略」を唱える藤山さんは「新たな潮流」に地域の未来を見る。

 内閣府の国民意識調査では、衰退する農村のために「積極的に協力したい」という回答が、20代の男性だけが突出して高かった。

 

新しい共同の形


 農業、農村への関わり方は、移住、2地域居住、週末援農に就農研修とさまざま。農泊や直売所巡り、ふるさと納税まで含め、関わること自体に価値を見い出す「関係人口」の広がりは、確実に農村の風景を変えつつある。

 移住にしろ応援団にしろ、彼ら彼女らは一様に「縁」「人との出会い」をきっかけに挙げる。受け入れ態勢が万全な自治体より、一緒に課題を解決するプレーヤーとしての役割にやりがいと生きがいを感じる。「地域おこし協力隊」などがいい例だ。

 それは壊れかけた農村の共同体を共に作り直し、つなぎ直す作業でもある。外からの刺激が「気づき」となって、農村の内発力を引き出した時、地域は劇的に変わる。

 農山漁村の「人」と「資源」を生かし、付加価値型の産業に磨き上げる。中央の下請け経済構造から脱し、域内で資金が循環する仕組みを作ることが、持続可能な未来の鍵を握る。
 

おだやかな革命


 その好例が、農業用水の小水力発電で集落再生に取り組む岐阜県郡上市の石徹白(いとしろ)地区。内と外の力がかみ合い、集落のほぼ全戸約100世帯が出資して専門農協を設立。一昨年から営業運転を始め、約2200万円の売電収入を農業振興に生かす。過疎の村が「エネルギーの地産地消」を起爆剤に変わった。子育て世代の移住も進み、10年で14世帯40人増えた。

 「百年の森林(もり)構想」で木材ビジネスに成功したのは岡山県西粟倉村。人口約1500人の過疎の山村は起業支援事業で、林業を核に約30社の多彩なローカルベンチャー企業が誕生。10年で約130人の雇用が生まれ、総売り上げは9億円に上る。移住者も100人を超え、村は一変した。手入れされた森からは床貼り材などのヒット商品が生まれ、間伐材は温泉の熱源になるなど、6次産業化の先進地となった。 

 こうした地域再生の取り組みを記録映画「おだやかな革命」にまとめた渡辺智史監督は、食やエネルギーなど地域の課題を他人任せにする時代は終わったという。「これからは、欲しい未来は自分たちの手で作っていく時代だ」とのメッセージは、全ての人々に向けられたものだろう。
 

幸せに下る道を


 あるべき未来を手に入れるために何をすべきか。保守派の論客で社会思想家の佐伯啓思氏は、「グローバル化」「競争力」「成長追求」を根底から見直す「価値転換」が必要だという(『さらば、資本主義』)。

 文化を通し地域づくりに関わる劇作家の平田オリザ氏ももはや日本は「工業立国」「成長社会」「アジア唯一の先進国」ではないという。「競争と排除の論理から抜け出し、寛容と包摂の社会」を目指すべきだと説く(『下り坂をそろそろと下る』)

 持続可能な社会とは「つながる社会」。人も自然も生かし生かされながら未来へ「続く社会」。身の丈に合った経済や社会の自立モデルを地域から作り直す時である。それは縮小し閉じこもることではない。開かれたローカル経済で世界とつながることだ。

 未来へと続く幸せな坂道の下り方を考えよう。自立した産業、医療や学校など安心と安全の生活基盤、なるべく環境に負荷をかけない食やエネルギーの地産地消、そして誇れる文化の創造。それらを包む込むゆるやかな共同体こそが、「新しい農村」の姿だと確信する。それは、人間復興と文化再生、現代のルネサンス運動に匹敵するだろう。

 宮沢賢治の「農民芸術概論綱要」の一節を引く。「おお朋(とも)だちよ いっしょに正しい力を併せ われらのすべての田園とわれらのすべての生活を一つの巨(おお)きな第四次元の芸術に創りあげようでないか」

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