[つながる 4] ファン×産地 “物語”と食材発信 雑誌通じ魅力発見

生産者の忠鉢さん㊨と温海かぶについて話し合う松本さん(山形県鶴岡市で)

 地元の情報を発信する雑誌が産地と消費者をつなぐ。“記者”は地域の魅力を発掘する若者だ。山形県から2カ月に1回発行される『山形食べる通信』を作るのは、鶴岡市に住む編集長、松本典子さん(34)だ。

 食べる通信は、伝統野菜など地元の食材を取り上げ、生産者のストーリーやおいしい食べ方の紹介とともに、食材をセットで送る情報誌。全国で37の食べる通信が発刊される。山形もその一つ。

 松本さんは、東京で編集者として働いた後、結婚を機に2013年に移住した。理由は「山形の農産物に胃袋をつかまれた」。創刊のきっかけは「生産者と消費者のミスマッチの解消」だという。地元の伝統野菜は産直市場などで販売されても売れ残ることがあった。消費者は伝統野菜に興味を示すが「料理の仕方が分からない」などを理由に、購入まで至らない。生産者と消費者の懸け橋になることを決意。15年に創刊した。

 創刊時からの読者である、東京都世田谷区の金光由美子さん(40)は「手にしたことがなかった食材と出合えることが楽しみ。作り手が見え、生産ストーリーもある」と魅力を話す。松本さんには多くの読者から「山形出身者だけど知らなかった」「農家の苦労を知ることができた」などの声が寄せられる。

 食べる通信は生産者にとっても大きな効果をもたらす。「松本さんの発案で生食が可能だと気付いた」と話すのは伝統野菜「温海かぶ」を生産する温海町森林組合の忠鉢春香さん(37)。16年12月号で「焼畑あつみかぶ」を取り上げる際、松本さんが生野菜として温海かぶを食すことを提案。これまで漬物で食べることが当然とされてきたが、松本さんの提案がこれまでの常識を覆し、消費の幅が広がった。食べる通信をきっかけに温海かぶの認知度は上がり、九州の料亭が直に買い付けを申し入れてきたという。忠鉢さんは「地元出身者では気付けないことを教えてくれた」と感謝する。

 食べる通信は13年に岩手県花巻市の事業家、高橋博之さん(43)らが『東北食べる通信』を創刊したのが始まり。その取り組みが全国に広がった。編集者は1次産業関係者とは限らず、地域に魅了された若い移住者も多い。現在、全国の食べる通信を統括する「日本食べる通信リーグ」の代表も務める高橋さんは「編集者は農産物の裏側を可視化しているため、消費者には有益な情報を提供し、生産者は読者から正当な評価を受けることができる」と広まる理由を分析する。

 食べる通信だけではない。全国各地で、農村の魅力や地域の農家を取材し、独自の雑誌を発刊する若い記者が活躍する。奈良県川上村に地域おこし協力隊の一員として移住した米国人のマタレーゼ・エリックさん(31)は『UpstreamDays上流の日々』を17年6月に発行した。日本の都市住民や米国人が対象。日本の読者からは「茶がゆ」など昔ながらの食文化を懐かしむ声が寄せられる。米国からは柿の葉ずしへ関心が高かった。

 エリックさんは「村民は、雨の日も、雪の日も畑に行き、在来の種で野菜を作り続けている。読者はその農家が 丁寧に作る冬のハクサイやダイコンに魅力を感じている」。雑誌が農家と消費者をつなぐ懸け橋になっている。
 

識者の目 読者と記者 ニーズがっちり 『ローカルメディアの作り方』の著者で編集者の影山裕樹さん


 
 誰もが興味を持つニュースがなくなり、大手マスメディアが衰退している。対して『食べる通信』などの地方や農業、食材を題材にした小雑誌は読者と記者の間に相互交流があり、記者から読者の顔が見えているのが特徴だ。読者ターゲットを決め、どのような情報を発信していくかを決める時代だ。

おすすめ記事

若者力の新着記事

検索

e農サーチ e農サーチとは