進む「公共の企業化」 協同理念で対抗軸を 経済評論家 内橋克人

内橋克人氏

 日本の政治・経済社会で今も大手を振るう「規制緩和」万能論は「平岩レポート」に始まる。当時の細川護煕首相の私的諮問機関「経済改革研究会」(座長・平岩外四経団連会長)が1993年12月にまとめた報告書で、安倍政権が「改革」の名で進める「公共の企業化」の正体を知る上で欠かせないものだ。
 

規制緩和万能か


 同レポートは宣言する。「規制緩和によって、企業は新しいビジネスチャンスが与えられ、雇用は拡大し、消費者には多様な商品・サービスの選択の幅を拡げる。(中略)抜本的な見直しは、短期的には経済社会の一部に苦痛を与えるが、中長期的には自己責任原則と市場原理に立つ自由な経済社会の建設のために不可避なものである。強力に実行すべきである」。これが国民に「改革」を迫る政治的な大義名分とされた。

 「平岩レポート」が生まれた背景には激烈な日米貿易摩擦がある。86年の「前川レポート」では、強硬な米国の要求に応えて10年で430兆円もの財政支出や規制緩和推進を約束、実行させられた。経済学者の宇沢弘文氏は、その後、さらに追加させられた財政支出を含めて「一切、日本企業の生産性向上につながってはならないという秘密裏の日米合意の下、実施された」と筆者に明かしたことがある。

 対日圧力は以後も日米構造協議、年次改革要望書など、手法を変えつつ続いた。圧力の背後に米国の金融業界や多国籍企業の存在があったことは言うまでもない。

 総合保養地域整備法(リゾート法)の成立は「前川レポート」から約1年後のことだ。日米間の秘密合意により「企業の生産性・国際競争力向上につながらない」浪費的公共投資に財政資金が投入された。リゾート法のその後を見れば、今にしてその狙いを否定できる者はいないだろう。「公共」や「社会的共通資本」の「企業化」が公然と行われた。
 

米国は社会分断


 では、米国で規制緩和万能論は何をもたらしたのか。貧富の格差が拡大し、ミドル(中間)層は崩壊し、社会分断の末に現われたのがトランプ大統領だ。

 安倍政権は規制緩和を「改革」「革命」と呼ぶが、これは詐称にすぎない。日本農業の「公共の企業化」が今加速している。政府の規制改革推進会議農林ワーキング・グループ(WG)の本間正義東大教授は、かねてから「農地の株式化」(証券化)による流動性の確保を唱えている。「農地の株式化」で、株式の市場価格は地域間プロジェクト競争(各自治体がそれぞれ発出)の勝敗によって決まる、と言う。農業のインフラ、すなわち「農地」を市場メカニズムに任せることが日本農業の活性化につながるというのだ。これらの「改革」を同時並行的に進めるのが「農業ビッグバン」だとも説いている。果たして本当か。

 政府は主要農作物種子法(種子法)を廃止し、農業競争力強化プログラムに基づく8法も成立させた。1月下旬に召集される通常国会には、中央卸売市場の開設を原則、自由にし、民営も可能にする卸売市場法改正案が提出される見込みだ。

 市場原理主義が日本や農業を席巻する一方、協同組合や相互扶助の理念は正統な位置付けさえ得られていない。私たちは今「協同組合――冬の時代」を乗り越える、新たな理念と対抗軸を打ち立てなければならない。
 

<プロフィル> うちはし・かつと


 1932年神戸市生まれ。新聞記者を経て経済評論家。日本放送協会・放送文化賞など受賞。2012年国際協同組合年全国実行委員会代表。『匠の時代』『共生の大地』『共生経済が始まる』など著書多数。

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