反転の農業産出額 生産基盤の安定が第一

 長らく右肩下がりで推移してきた農業総産出額が2年連続で前年を上回り、反転の兆しが見える。背景には国内生産の縮小による農産物の供給過少という構造問題がある。併せて、消費者の国産志向の高まりや国際的な「食料争奪」でかつての洪水的な輸入が起こりにくい現実もある。まずは「生産基盤の立て直し」第一の農政を展開すべきだ。農業所得の向上という大目標の達成にも有効である。

 食料自給率が38%まで低下した。農業者の高齢化や後継者不足、地方の人口減、さらには貿易自由化の加速など、農業の持続可能性が脅かされている。

 一方でマクロ経済的に見て、農業が息を吹き返す断面を示すのが、農業総産出額の増加である。2016年は前年より4000億円強増えて9兆2025億円、16年ぶりに9兆円の大台を回復した。産出額のピークは昭和の終わりから平成初めだが、畜産酪農や野菜はその頃の水準に近づきつつある。最盛期の4割水準にとどまる米に代わり、3兆円を超す畜産酪農が今や農業の“稼ぎ頭”といえる。

 総産出額の伸びをけん引したのは、農産物の総体的な価格上昇である。その要因は端的に言えば、産地の供給力低下と堅調な国産需要による需給の引き締まりである。バブル期のように、国産が値上がりするとスーパーが世界各地から農産物をかき集めてくる時代は終わった。食料マーケットの主役は中国である。10年前のリーマンショックの頃、世界的な食料危機への警鐘が国内外の有識者から発せられたが、日本で今、国産不足を背景に“ミニ食料争奪”現象が起こっている。青果物でその傾向が顕著である。

 総産出額の増加は「アベノミクス」の成果ではないことを指摘しておく。安倍政権が進める農業の競争力強化は、短期的には中小規模農家や中山間地域の後退を招き、国内の生産力をさらに低下させる恐れがある。中長期的にみても、大規模農業者や法人、参入企業の生産力で縮小分をカバーできるかは不透明と言わざるを得ない。

 農政が今取り組むべきは、生産基盤の維持に全力を挙げ、供給過少の加速に待ったをかけることだ。これ以上の生産縮小は食料安全保障を根底から揺るがす。安全・安心で持続可能な食生活を望む消費者・国民にこそ重大問題である。

 多様な担い手の育成や家族農業を重視する視点を農政は取り戻すべきだ。なかでも生産の4割を占める中山間地域のてこ入れが欠かせない。革新的な技術の集中的な投入、作業オペレーター不足に悩む集落営農組織の労力確保・収支改善、加えて潮流になりつつある移住者の定住環境の整備も必要だ。

 国内で“ものづくり”の劣化が進行する。その復活の先頭に農業が立つべきだ。「中小零細農家の温存は構造改革を阻害する」という発想の時代は終わったとみるべきだ。

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