農業の働き方改革 農作業安全を最優先に

 農業の労働力不足を解消しようと農水省は昨年12月、農家や有識者らでつくる「農業の働き方改革検討会」を立ち上げ、議論を始めた。自給率が4割を切る中で農業の新たな担い手として、会社をリタイアした高齢者や子育て中の女性、外国人技能実習生、障害者など多様な人材を活用することが鍵となる。この議論で最も大切なのが「安全第一」という発想だ。

 全産業が人手不足に陥る中、農業の人手不足は突出している。農業は一般企業のように年間通して雇用することが難しいだけに「募集をかけても集まらない」と嘆く農家は少なくない。米麦や野菜、果樹などの栽培や収穫を担う「農耕作業員」の有効求人倍率は、2016年度は1・63と、12年度(1・08)と比べて上昇。全業種の有効求人倍率1・56(昨年11月)を上回る数字だ。

 耕作放棄地を解消し、4割を切った自給率を回復させるには、農の働き手を確保することは不可欠だ。JAの自己改革の柱となる農業所得を拡大するため規模を拡大しようにも、働く人がいなければ元も子もない。

 だが、その前にすべきは安全対策の強化だ。農業は危険と隣り合わせの産業である。刈り払い機のむき出しの刃で指を落としたり、機械に巻き込まれて腕や足をなくしたり、脚立から転落したり。農業就業人口が減り続ける中で10万人当たりの事故死は過去最悪の16・1(15年)。「きつい、危険、汚い」の3K職場といわれてきた建設業の2・5倍に上り、平均1日におよそ1人が命を落としている。

 期待したいのは、官民挙げて推進する労働安全を盛り込んだ農業生産工程管理(GAP)だが、GAPに取り組まない農家はその網からも漏れてしまう。

 現場では実際に、こんな事例も起きている。会社を退職後、妻の実家に戻り、農業を始めた60代男性の話だ。農機の運転を「見よう見まね」で習得し、農道に出ようとした時トラクター前輪が浮き上がり、4メートル下まで転落。あばら骨6本を折り、脊髄を損傷した。「定年後は気ままに農業をやりたい」という夢はもろくも崩れ去った。いくら多様な担い手を受け入れても、安全に機械を操作する方法が分からず、安全に働ける環境が整っていなければ、こうした悲劇は繰り返される。

 怖いのは、人を雇った場合だ。雇用主の農家に安全に配慮する義務が生じるだけでなく、1人でも雇えば労働法が適用され、けがを負えば、雇用主が全額負担しなくてはならない。労災保険の加入が不可欠だが、この問題にどれだけの農家が気付いているだろうか。

 日本では韓国や欧州などのように農業をする人の安全を確保し、事故を予防する法律もない。やみくもに農業に人を持ってくればいい、という議論は乱暴だ。まず求められるのは、万人が安心して働くことができる「安全第一」の発想だ。

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