「農福連携」の可能性 環境整え農を守ろう 慶應義塾大学教授 金子勝

金子勝氏

 「農福連携」の急速な広がりが話題になっている。障害者や生活困窮者が農業に従事する「農福連携」は、農業の担い手不足と障害者雇用先の不足という双方のニーズを満たす可能性を秘めているからである。

 まず農業者の高齢化が進んでいる。農林業センサス2015によれば、10年間で販売農家数が3分の1減り、農業就業人口の63・5%が65歳以上になっている。高齢の農業従事者は技術や知識が豊富でも体力が低下し、担い手不足が深刻になっている。

 他方、障害者の雇用先は非常に限られている。障害者雇用促進法は、一定数以上を常用雇用する民間企業に2%の障害者雇用(身体障害者と知的障害者)を義務付けてきたが、18年4月から精神障害者が新たに対象に加わり、法定雇用率が2・2%に引き上げられる。
 

雇用はごく一部


 だが、17年の障害者雇用数は49万5795人にすぎない。『平成27年版障害者白書』によれば、18歳以上の身体障害者は383万人、知的障害者は57万8000人、20歳以上の精神障害者は301万1000人。雇用数の49万人は、障害者全体のほんの一部にすぎない。

 確かに、担い手不足の農業と雇用先不足の障害者をマッチングできれば、双方にとってプラスになる。

 今進んでいる「農福連携」にはいくつかのタイプがある。第1は、社会福祉法人が農業に乗り出すケース。第2は、民間企業や生活協同組合の特例子会社が農業に乗り出すケース。第3は、農業経営体と就労系障害者福祉センター事業所(福祉事業所)との間で請負契約を結ぶケースである。

 良い事例もたくさん出てきているが、低賃金の単純労働力を賄い、障害者雇用に関するさまざまな助成金や補助金目当てに障害者を雇用する悪質な事例もある。ウィンウィンの関係を築くには、障害者の視点に立つことが必須である。
 

「6次化」が有力


 障害者が働きやすい環境をつくり、作業もしやすいように仕事の工夫も必要になる。さらに、雇用される障害者の賃金を引き上げていくには、年間を通じて仕事があるようにしなければならない。農業は一般的に農繁期と農閑期の労働需要の差が大きいからだ。

 水耕栽培の野菜工場のようにするのも一つの方法だが、加工や流通まで取り込む6次産業化が有力である。6次産業化はいろいろな種類の仕事を増やし、障害者自身の発達を保障し、能力を高めていくことができるという点でもメリットがある。

 農業は、環境に優しく安全でおいしい食を提供するだけでなく、福祉にも優しいことで、大きな社会貢献を担う産業になれる可能性を秘めている。
 

 <プロフィル> かねこ・まさる


 1952年東京都生まれ。東京大学大学院博士課程修了。2000年から現職。制度の経済学など専攻。著書に『金子勝の食から立て直す旅』など。近著に『日本病 長期衰退のダイナミクス』(岩波新書)。

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