農政改革の盲点 農村政策 “大幹”つくれ

 「官邸農政」が語らぬもの。それは、条件不利な中山間地域のむらと農の未来である。「強い農業」を掲げ産業政策に著しく傾斜した農政は、少子高齢化や人口減などの“国難”に覆われて久しい農山村を“現場放置”してきた感さえする。骨太の地域政策を打ち出すべき時だ。

 一連の農政改革施策は、今国会に提出予定の卸売市場法改正案などの関連法案をもって節目を迎える。斎藤健農相は昨年12月の講演や記者会見で「農政改革のだいたいやるべきことは収束する」と述べた。事実上の“打ち止め宣言”に聞こえる。

 安倍晋三首相は施政方針演説で「農林水産新時代」と強調し、林・水産を追加した。改革の政策ターゲットは林業と水産業に向かうようだ。だが、ちょっと待ってもらいたい。

 「毎日、汗を流して田畑を耕す農家の皆さんの世代を超えた営みが、中山間地域、故郷の豊かな山々を守り、地域が誇る特産品を生み出し、そして、我が国の美しい田園風景を作り上げてきました」。ほかならぬ安倍首相の演説である。その言は良し。だが現実に目を向ければ、中山間地域は集落機能と生産基盤の二つの危機に面している。

 日本の農業は、農畜産物の生産や農地の4割程度を中山間地域が占める。この地域の再生なくして、食料供給力の強化はない。1月中旬に開かれた農水省の食料・農業・農村審議会企画部会で複数の委員から、生産基盤の弱体化に歯止めがかからない現状を直視すべきだとの意見が挙がった。最も弱まっているのは、中山間地域である。

 農政は産業政策と地域政策の両輪がかみ合ってこそ、信頼を高め、人を動かし、現場に浸透する。「強い農業」を目指す視線の先には中山間地域がないのか。「農村振興」の名を冠した局を持つ農水省が、そこから目をそらすことは許されない。

 農泊や野生鳥獣の肉(ジビエ)など個別に意欲的な施策が出ていないわけではない。だが、今求められるのは農村政策のグランドデザインだ。持続可能な農山村地域をどうつくるか。これは国土保全や田園風景の維持など多面的機能の発揮ともつながる。既に地域コミュニティーをどう守るかの問題に向き合う国土交通省や総務省に後れを取ってはなるまい。

 立ち位置も大事である。昨今の農政改革で主流になった競争主義や市場原理主義と一線を画す必要がある。評論家の中野剛志氏は「農業という営為は、カール・ポランニーの用語を用いて言えば、自然と共同体の中に『埋め込まれ』ているのである(『自由貿易という幻想』)と指摘する。中山間農業はその特性が一段と濃厚だ。

 地方創生と中山間地域の大切さに言及した首相演説を機に、政府・与党は農政のもう一つの車輪を力強く動かすべきである。生産現場や専門家の意見と知恵を結集して、ボトムアップで回さなければならない。

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