低調な憲法論議 国民と共に国家像探れ

 今国会の争点である憲法改正論議が深まらない。目立つのは、憲法に自衛隊を明記することで、悲願の改憲にひた走る安倍晋三首相の姿だけである。

 自民党は3月の党大会に向け意見集約を急ぐが、党内にも異論が根強い。連立を組む公明党は改憲そのものに距離を置き、野党も賛否は分かれる。

 なぜかくも低調なのかは明らかだ。議論の前提となる憲法観が各党で違う上、改憲自体の是非論もある。ましてや共通の土俵づくりには程遠い。何より主権者である国民の中に改憲機運が盛り上がっているとは言い難い。発議に必要な衆参3分の2議席という数を頼みに、改憲発議ありきの国会運営では将来に禍根を残すだろう。

 憲法に自衛隊をどう位置付けるかが最大の論点になっている。首相は昨年5月、自民党総裁として、戦争放棄をうたう9条1項、戦力不保持を定めた同2項を残し、新たに自衛隊を明文化する案を提案し党内議論を促した。これを受け、同党は昨秋の総選挙で初めて具体的な改憲項目を公約に掲げ勝利した。

 首相は先の施政方針演説で改憲について、各党が具体案を持ち寄り、憲法審査会で議論を深め、前に進めることに期待を示した。首相は予算委員会でさらに踏み込み、9条1項、2項を残す以上、無制限に集団的自衛権が行使されることはないとの見解を示した。これは、自衛隊を憲法に明記すれば、1項、2項が空文化し、際限なく武力行使が拡大するという野党などの批判を封じる狙いがあるとみられる。また、こうした加憲案にすれば、抵抗する公明党を議論の土俵に乗せ、国民投票でも支持が得られやすいという現実的な判断が働いたのだろう。

 だが、自民党が6年前にまとめた改憲草案では、戦争放棄を掲げながらも、自衛権の発動を是認し、「国防軍」の創設をうたっている。憲法改正が党是の自民党にとってはこちらが「本筋」ではないのか。しかも現政権は集団的自衛権を限定容認する「解釈改憲」を強行した経緯もある。加憲案だと自衛隊が「戦力」かどうかが曖昧な上、文民統制上の問題も残る。

 そこから透けるのは、改憲勢力を持つ今の安定した政治基盤の下で、どんな形でもまず憲法改正を実現したいという強い政治的意思である。政権の思惑で改憲論議を進めるなら、憲法が権力の行使を縛るという立憲主義の観点からも倒錯していると言わざるを得ない。

 現行憲法を「不磨の大典」として思考停止に陥ることを良しとはしない。社会、経済環境は大きく変わり、新たな課題や問題も多く発生している。憲法論議を9条だけに矮小(わいしょう)化し、政争の愚にすることなく、人権、教育、環境、食料安全保障、議員内閣制の在り方など幅広い観点から、国家、社会のあるべき姿を未来志向で国民と共に幅広く論じることこそ肝要であろう。

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