[達人列伝 37] ミカン「小原紅早生」 香川県坂出市・小原幸晴さん 偶然の紅 GI飛躍へ 食味常に意識 アジアに輸出

「小原紅早生」の開発、育成に半世紀をささげた小原さん(香川県坂出市で)

 2017年に地理的表示(GI)保護制度に登録されたミカン「小原紅早生」。香川県坂出市の園地で枝変わりを発見した小原幸晴さん(80)は半世紀かけて成長を見守り、知名度向上に尽力した。国内の品種で最も濃いといわれる紅色の外皮と高い糖度を誇る品種だ。出始め当初は見慣れない色が「気持ち悪い」と受け入れられなかったが、今ではアジア圏にまで販路が広がっている。

 「小原紅早生」は1973年に「宮川早生」の枝変わりとして小原さんが園地で発見。濃い紅色と12を上回る高い糖度、骨を作る働きに作用する●クリプトキサンチンの含有量も多い。

 世に出るまでには偶然が重なった。小原さんは果実を見つけた枝を接ぎ木しようとしたが、父親は「切ってしまえ」と言った。翌シーズンに向けた剪定(せんてい)時にはどの枝に紅色の果実がなっていたか忘れてしまったが、切り落とさずに済んだ。「偶然の産物だ」と笑う。

 ただ、農業試験場に持ち込み、検査や栽培実験を繰り返して、20年後の93年にようやく品種登録につながった。小原さんは「いろいろな人の協力がなければ、今の知名度はない」と強調する。

 販路開拓も苦労が多かった。「紅色のかんきつはまだなかった」と小原さんは振り返る。なじみのない色になかなか客が付かなかったが、高松市内の百貨店が食味の良さにひかれ販売を始めた。「売り場で色が目を引いたのだろう。この売り込みがなければ広がるのはもっと遅かった」

 世に出るきっかけにつながった食味には今もこだわる。15年前に導入したマルドリ栽培(マルチ・点滴かん水同時施肥法)のおかげで平均糖度は12を上回る。糖と酸のバランスが良く、味や香りも濃厚で高い満足感が得られると評価が高い。

 JA香川県坂出みかん共選場の担当者は「毎年品質の高い果実を出荷している。3、4割が最上級品になる」と強調する。周りに広めてきただけに、品質を維持する熱意はピカイチだと評価する。台湾やシンガポール、マレーシアにも輸出し、現地では縁起物としての需要があるという。

 毎年、小原さんからミカンを買う客からは「子どもは黄色いミカンは食べないが、紅色のミカンは進んで食べる」といったうれしい声もある。「自然に出てきたものだから、他の産地にまねはできない。後に継ぐことを今は考えている」

 昨年、自宅で転んだ際に足を骨折してしまい、今はほとんど園地に出ていない。ただ、妻の盛子さん(77)や息子らの支えもあって、園地はきれいに整備されている。盛子さんは「この品種の第一人者の園地。家族や親類も絶やすわけにはいかないと思っている」と話す。

 これからの目標は後継者づくりだ。他の園地でも後継ぎは退職後の就農が多く、若手が戻ってきていない。仏壇や神棚に「小原紅早生」を置く小原さんは「面白い品種だからこそ絶やしたくない。産地全体に若い人が戻ってきてほしい」と願う。(丸草慶人)
 

経営メモ


 「小原紅早生」の他に、「宮川早生」、「石地」を1・3ヘクタールで栽培。剪定などの管理は妻が、収穫期は親戚らが手伝う。
 

私のこだわり


 食味が良ければお客は付いてくる。分かりやすいのは糖度を高くすることだ。

編注=●はギリシャ文字のベータ。

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