きょうは山から里へ「田の神様」が下りてくる日
2018年03月16日
きょうは山から里へ「田の神様」が下りてくる日。16個の団子を供えてお迎えするので「十六団子の日」ともいう。きねと臼で餅をつき神様に合図を送る。そんな農耕儀礼の名残が今も伝わる▼農をつかさどる神様は、春になれば里に下り、収穫が終わる秋に山に戻る。「田の神」と「山の神」が山と里を行き来して、実りを見守ってきた。ところが昨今、山から下りてくるのはイノシシ、鹿、猿、熊たち。人間が追い出されて、里に定住しそうな勢いである▼農水省であった全国鳥獣被害対策サミットに行くと、危機感がひしひしと伝わる。捕獲から食肉の処理・加工・流通技術、ジビエの普及まで、この問題の裾野の広さを実感する。鳥獣害対策は、農家の死活問題にとどまらず、地域の存亡がかかる社会問題といっていい▼同サミットで講演した田中康弘さん(マタギ自然塾代表世話人)の対案は明快である。野生動物が里を縄張りと認識してしまった以上、「とにかく捕る。捕ったら食べる。それしかない」▼そこに意外な助っ人が現れた。フィギュアスケート元世界女王の浅田真央さん。NHKの番組で「最終的な夢は自給自足の生活」と語り、山で狩りをしてイノシシをさばきたいとおっしゃる。「田の神様」ならぬ最強の狩りガール降臨か。
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広がる「手ぶらで観光」 訪日客呼び込み 好機 JAや道の駅認定事業者に
国土交通省が進める、インバウンド(訪日外国人)が手ぶらで観光できる環境整備が広がっている。道の駅などの直売所に受け付けカウンターを設置し、購入した商品を次の目的地や海外へ配送する他、一時預かりする取り組み。荷物を持ち歩く負担を減らすことで、農産物や加工品などの購入意欲を高める。直売所や観光農園などを経営するJAや農業法人の商機につなげる。
2015年から始めた同省の「手ぶら観光事業」の認定事業者は18年3月末で222カ所に拡大。空港など交通の要所だけでなく、最近は道の駅にも広がっており、「地方でもカウンターの設置が進んでいる」(同省物流政策課)。
認定には、荷物の一時預かり、または日本郵便などの配送業者と連携した配送のいずれかを行い、配送の場合は当日、または翌日までに次の目的地へ届けることが必要。その他、外国語での案内や料金体系、補償内容を明示することが条件となる。JAや農業団体の直売所、観光農園も対象になる。
条件を満たした民間事業者は、同省の「手ぶら観光ロゴマーク」が掲示できる。さらに受け付けカウンターや外国語での案内標識の設置にかかる費用の3分の1の助成が受けられる。補助事業への応募は、最寄りの地方運輸局に書類を提出する。
北海道函館市で海産物や青果物を扱い、年間200万人近くの観光客が訪れる函館朝市は、16年にインバウンド向け総合カウンターを設けた。英語での観光案内とともに、手ぶら観光として農産物の海外発送を行う。免税対応を整備し、アジアからの観光客を中心にメロンなどの農産物や荷物の海外発送が年間80件ほどあるという。
同省は今後、補助事業を通じて手ぶら観光カウンター設置数の拡大を進めるとともに、インターネットを通じて海外への情報発信を強めていく方針だ。同省は「地方へ足を延ばす契機にしたい」と話す。
2018年04月15日
日米、貿易新協議へ 「TPP」「2国間」溝鮮明
安倍晋三首相と米国のトランプ大統領は18日、日米で貿易の新たな協議を始めることで合意した。米国南部フロリダ州パームビーチで2日間会談し、同日の共同記者会見で発表した。貿易の在り方に関し、安倍首相は環太平洋連携協定(TPP)が「最善」と訴え、米国が復帰する場合でも農業分野ではTPPの水準を上回る関税引き下げなどの譲歩はしない意向を伝えた。一方、トランプ氏は「2国間の貿易協定の方が好ましい」と明言。隔たりが浮き彫りになり、新たな協議を舞台に攻防が本格化する。
2日目の18日は通商分野について集中的に議論した。安倍首相は、トランプ氏がTPP復帰検討を指示していたことを踏まえ、会談で復帰を要請した。一方、トランプ氏は会見で「TPPには戻りたくない」と復帰に否定的な発言を繰り返した上で、「日本と一対一で交渉を行っていきたい」と強調。2国間交渉の方が望ましいとの姿勢を鮮明にした。
両首脳は、「自由で公正かつ相互的な貿易取引のための協議」を始めることで合意。日本側は茂木敏充TPP担当相が、米側は通商代表部(USTR)のライトハイザー代表が担当する。協議内容は、麻生太郎副総理兼財務相とペンス米副大統領による日米経済対話に報告する。
新協議についてトランプ氏は、「遠くない将来に良い合意に至ることができると思っている」と述べ、早期に成果を出すことへの意欲をにじませた。ライトハイザー氏は1980年代のUSTRの次席代表を務め、強硬な交渉姿勢で日本に鉄鋼輸出の自主規制などをのませた経歴で知られる。日本の農産物市場の開放や、自由貿易協定(FTA)交渉への意欲を示す発言を繰り返しており、協議でも強硬な姿勢を示す可能性が高い。
米国による鉄鋼・アルミニウムの輸入制限について、日本への除外は合意に至らなかった。トランプ氏は輸入制限を「多くの国との交渉材料となっている」と明言。除外を取引材料にFTAを求めてくることへの懸念も残った。
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TPP以上拒否 焦点 与党冷静、野党は批判 日米新協議
2018年04月20日
夏場の生乳ピンチ 都府県向け緊急対策を
2017年度の全国の生乳生産量が30年ぶりに700万トンの大台を割り込んだ。異常事態である。特に都府県の基盤弱体化に歯止めがかからない。夏場の飲用牛乳逼迫(ひっぱく)の懸念が一段と高まってきた。緊急的な都府県酪農対策が必要だ。
中央酪農会議(中酪)がまとめた指定生乳生産者団体(指定団体)の17年度総受託乳量(沖縄県を除く)は約698万トンとなった。700万トン割れは1987年以来。大台割れは弱体化が進む酪農生産構造の象徴的な意味を持つ。問題は増産に転じた北海道とは逆に減産幅が大きくなっている都府県の実態だ。
中酪まとめは指定団体の受託乳量ベース。Jミルクは、これ以外の集荷業者なども含めた2018年度生乳生産量を725万トンと予測する。前年度比99・5%、約3万5000トンの減少となる。
一時、バター不足など乳製品需給が問題となった。都府県の地盤沈下の進行は、国内酪農の次の危機的な局面、つまり輸入代替が利かない飲用牛乳の逼迫に結び付きかねない。都府県の原料乳不足を補うため、ホクレンからの道外移出生乳は前年比で2桁増の異例の多さになっている。だが、道内の乳製品工場の操業度も踏まえれば、移出対応にも限界がある。
特に業界が懸念しているのは、生乳生産が落ちる一方で、学校給食牛乳が再開し需給逼迫が一挙に高まる9月の動向だ。猛暑など夏場の天候の推移によっては、牛乳の出荷制限の動きが強まりかねない。大手乳業では「夏場にはスーパーの特売自粛が不可欠だ」の声も出ている。都府県の供給を補うための北海道からの生乳移出量は1カ月で約6万トンと限られる。ドライバー確保など輸送面での課題も多い。
乳製品主体の北海道と飲用向けが大半の都府県のすみ分けが、国内の用途別需給バランスを保っている。都府県の生乳生産の安定供給が欠かせない。
畜産クラスターなど各種事業はあるが、北海道をはじめ大型酪農を想定したものが多い。都府県の家族酪農を後押しした基盤強化で増産に結び付く対策の拡充が重要だ。Jミルクの前田浩史専務は開催中のブロック会議で、受託乳量700万トン大台割れを念頭に「新しい視点で新しい対策の構築を急ぐべき」と都府県支援の必要性を訴えた。
4月からは、これまでの加工原料乳不足払い法を廃止し、改正畜産経営安定法が施行された。生乳取引の多様化を促すもので、貿易自由化の進展とともに生乳需給の見通しが一段と不透明となってきた。制度改革の論議の中で懸念された、部分委託や酪農家の「二股出荷」の動きが一部で出てきた。こうした中で、都府県酪農てこ入れが課題となっている。
自民党は特別対策チームを立ち上げ緊急対策の検討に入るべきだ。実効性の高い生産基盤対策が問われている。
2018年04月19日

米国向け牛肉輸出200トン超 低関税枠 早くも突破 4月上旬
2018年の米国向け牛肉輸出量が、4月上旬時点で、日本に設定された低関税枠の200トンを超えたことが17日、米国税関国境保護局のまとめで分かった。今後は12月末まで高関税が課せられる。6月中旬に達成した昨年を上回る異例の早さだ。輸出業者は「今後ペースは若干鈍るが依然引き合いが強く、通年で販売が拡大する」とみる。
2018年04月18日
FAOが巻き返しへ 真価問われる「家族農業の10年」 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏
国連は2017年末、19~28年を「家族農業の10年」と定めた。14年に定めた「国際家族農業年」を10年間延長するというもので、国連食糧農業機関(FAO)などが国際的キャンペーンを展開してきた成果である。しかし、このことが、ただちに各国で小規模・家族農業が政策の中心に位置付けられつつあることを意味するわけではない。
これは、米国主導の世界銀行、国際通貨基金(IMF)の開発援助を通じて多国籍企業などが途上国の農地を集めて大規模農業を推進し、流通・輸出事業を展開して途上国農村をもうけの道具とする流れに対抗したFAOの反旗ののろしなのである。
FAOは途上国の農業発展と栄養水準・生活水準の向上のために設立され、各国の小農(家族農業)の生活を守り、豊かにするinclusive(あまねく社会全体に行きわたる)な経済成長が必要と考えたが、米国には余剰農産物のはけ口が必要で、また米国発の多国籍企業などが途上国を食い物にするたくらみとはバッティングする。そして、FAOは1国1票で途上国の発言力が強いため、米国発の穀物メジャーに都合が良い「援助」政策を遂行できないことが分かってきた。
そこで、米国主導のIMFや世銀に、FAOから開発援助の主導権を移行させ、「政策介入によるゆがみさえ取り除けば市場は効率的に機能する」という都合のいい名目を掲げて、援助・投資と引き換え条件(conditionality)に、関税撤廃や市場の規制撤廃(補助金撤廃、最低賃金の撤廃、教育無料制の廃止、食料増産政策の廃止、農業技術普及組織の解体、農民組織の解体など)を徹底して進め、穀物は輸入に頼らせる一方、商品作物の大規模プランテーションなどを、思うがままに推進しやすくした。しかも、強制したのでなく当該国が「自主的に」意思表示したという合意書(Letter of Intent)を書かせた。
FAOは弱体化され、真に途上国の立場に立った主張を続け、地道に現場での技術支援活動などを続けてはいるが、基本的には、食料サミットなどを主催して「ガス抜き」する場になってしまった。今でも、飢餓・貧困人口が圧倒的に集中しているのはサハラ以南のアフリカ諸国であり、この地域がIMFと世銀のconditionalityにより、最も徹底した規制撤廃政策にさらされた地域であることからも、「政策介入によるゆがみさえ取り除けば市場は効率的に機能する」という新古典派開発経済学の誤りは証明されている。というか、そもそも、貧困緩和ではなく、大多数の人々から収奪し、大企業の利益を最大化するのが目的だったのだから、当然の帰結なのである。
「家族農業の10年」はFAOの決死の巻き返しである。これをスローガンに終わらせてはならない。米国主導の穀物メジャーなどが都合良くもうけるための農業・農村支援の名の下の収奪の現状から脱却し、真に小規模・家族農業を再評価し、政策的に支援する方向性を本当に具体化できるかどうか、闘いはこれからである。
2018年04月17日
四季の新着記事
新緑とともに新茶の季節である
新緑とともに新茶の季節である▼3月からの気温上昇で芽伸びが一気に進み、静岡茶市場は4番目に早い初取引となった。上場数量は昨年の6倍にも。JA富士宮が出品した「さえみどり」の手もみ茶が1キロ109万円と過去最高値を付け、生産者の期待が膨らむ。落札した会社が5月2日の八十八夜に地元の神社に奉納し、茶業振興を願って参拝客らにも振る舞う▼血圧の上昇を抑えたり、ストレスや認知症、がんを予防したりと、お茶の効用は驚くほど多い。大妻女子大学「お茶大学」校長の大森正司さんのお勧めは、茶葉ごと食べること。寝る前に3グラムほど口に入れ、300から500回かむ。ドロドロになってもすすがず、そのままごっくん。茶の効能フル活用である。やってみると、顎は結構疲れるが、翌朝の目覚めがいつもと違う。爽やかですっきり▼立春から数えて“七十七夜”のきょうは、わび茶を極めた茶人千利休の命日に当たる。安土桃山時代に日本独特の茶の湯の道を広めながら、豪華絢爛(けんらん)を好んだ秀吉との確執に散った。山本兼一さんの『利休にたずねよ』(PHP文芸文庫)を読んで、狂おしいほど美にこだわった茶聖の誇りと苦悩に引かれる▼夏が近づく八十八夜まであと少し。おいしいお茶で世界に誇る日本文化を味わう。
2018年04月21日
あの感動を再び
あの感動を再び。東京を皮切りに全国巡回中の「羽生結弦展」。盛況に驚きながら、冬季五輪連覇の偉業を昨日のように思い出した▼大震災から7年。巨大津波が直撃した被災地・仙台出身の羽生選手は、あさって地元で凱旋(がいせん)パレード。多くの人が2度目の感涙を流すだろう。あの連覇の瞬間、特設の応援席を設けたJR仙台駅構内は歓声と涙が一つに。被災地へ元気を届けようと、自らも被災した経験を糧に執念がもたらした金メダルでもあった▼冬季五輪出場選手の活躍が今も続く。ジャンプ女子で銅の高梨沙羅選手はW杯で男女通じて歴代最多勝を塗り替えた。北海道弁と「もぐもぐタイム」で一大ブームを巻き起こしたカー娘。支援するJA全農の長澤豊会長に聞いた。「早く彼女たちの笑顔に会いたい」と応じたが、多忙でまだ凱旋報告に来られない。試合では韓国産イチゴを「もぐもぐ」したが、逆に品質で群を抜く日本産イチゴPRのチャンスでもある▼あのツーショットは忘れがたい。微妙な日韓関係の中で、スピードスケート女子の小平奈緒、李相花選手の深い友情と互いを称え合う姿に、スポーツの真の姿を見る▼きょうは二十四節気の一つ「穀雨」。命を育む恵み。感動を呼ぶスポーツは優しく心に降り注ぐ「穀雨」かもしれない。
2018年04月20日
歴史は50年周期で大きく変わる
歴史は50年周期で大きく変わる。明治維新100年に当たる半世紀前、1968年という年もそうだった▼歴史が動き今につながる出来事が相次ぐ。ベトナム反戦運動が高揚し、フランスの「パリ五月革命」では学生と労働者がスクラムを組む。米国の公民権運動の中で「私には夢がある」と未来を語ったキング牧師暗殺。社会主義圏でもソ連(当時)による「プラハの春」の抑圧や中国文化大革命など、その後に禍根を残す事件も相次ぐ▼国内でも反戦・平和を掲げたべ平連の活動や大学紛争、農民たちが立ち上がった三里塚闘争、反公害の水俣病告発など、政府や大企業の在り方を問う草の根運動が広がった。以前見た国立歴史民俗博物館の特別展「1968年」から学ぶ▼週末、東京・渋谷で加藤登紀子さんのコンサート「花はどこへ行った」。「パリ五月革命」から50年の世界変化と自身の半生を歌でつづる。加藤さんは60年代当時、東大生から歌手へ。反戦・平和への声を上げた。タイトルは米国の代表的な反戦歌。〈花はどこへ行った 少女がつんだ〉〈男はどこへ行った 兵士として戦場へ〉。最後に〈いつになったらわかるのだろう〉▼特別展の副題は「無数の問いの噴出の時代」。世界を覆う無益な争いは、いつになったら終わるのか。
2018年04月19日
日米首脳会談が始まった
日米首脳会談が始まった。“自国第一”は是正されるのか▼話題の映画「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」は、政府VS新聞の闘いを描く。ベトナム戦争時の国防総省機密文書の報道を巡る実話に基づく。米国の歴代政権が隠し続けてきた。まず、ニューヨーク・タイムズが機密を暴く連載を始める。同時に政治的圧力が強まる。映画は疑惑を続報するワシントン・ポスト紙の葛藤と決断を追う▼「報道の自由を守るのは報道しかない」と名優トム・ハンクス扮するブラッドリー編集主幹。社主のグラハムは「報道機関が仕えるのは国民。統治者ではない」と応じる。監督はスピルバーグ。記者ばかりでなく制作、印刷、発送など新聞社で働く全ての人々を丹念に撮る▼同問題を扱った『政府対新聞』(田中豊著、中公新書)を数十年ぶりに読む。敏腕シーハン記者がまぶしい。同問題はやがて、ポスト紙が追及しニクソン大統領が辞任する〈ウオーターゲート事件〉とも底流で重なる。この事件は「大統領の陰謀」の名で映画にもなった。今、世界の強権的な指導者が報道機関を名指し攻撃する中で、主題が〈現在〉につながる。「偽ニュースだ」と叫ぶトランプ氏の登場が、スピルバーグに製作を決意させた▼映画は新聞人の矜持をも改めて問う。
2018年04月18日
年初から代わる代わるに世間を騒がすのは
年初から代わる代わるに世間を騒がすのは大相撲と安倍首相案件である。「天知る、地知る」は、日本相撲協会の評議員会議長を務める池坊保子さんが発言して、知られるところとなった▼「不正は必ず明らかになる」ということわざである。騒動の渦中で黙して語らぬ貴乃花親方を率直な物言いでいさめた言動がネットでたたかれ、よほどこたえたのか。会見で思わず口に出た。これを“貴の乱”に使うのは適切ではないという専門家の指摘がある。だが、首相案件をはじめとして続々露見する政府の隠蔽問題にはピタリとはまる▼中国の古い歴史書『後漢書』の「楊震(ようしん)伝」に出てくる。夜中、ひそかに昇進のお礼に賄賂を持ってきた者に、清廉高潔な政治家が「四知」を突き付け、不正に加担するのを拒絶する。もう二つの知とは「我知る、子(し=相手)知る」。戦前、子どもたちが修身の授業で教わり、「お天道様が見ている」は庶民の道徳にも定着した▼各省で公文書改ざん・紛失、口裏合わせに関わった「我と子」は数十人にとどまるまい。学業に秀でたエリート役人が国会で記憶をなくす光景も異様である。一段と下がる内閣支持率が1強を揺るがす。「天網恢恢(かいかい)疎にして漏らさず」▼天罰から逃れられないという意である。これも押さえておこう。
2018年04月17日
タモリさんの地形マニアぶりが面白い
タモリさんの地形マニアぶりが面白いNHK「ブラタモリ」。〈段差〉に目の色が変わる。サングラスで見えないけれど▼自戒を込めて書くが、現代人の〈地形感覚〉は退化の一途である。今いる土地が元々山麓なのか林地なのか湖沼か低湿地か、意識することはまずない。〈地歴〉はビルや家屋の下に埋まっている。そんな中で〈段差〉は本来の地形の一端を地上にさらす。タモリさんを引き付けるゆえんだろう▼防災の観点からも地形は重要である。『地名は災害を警告する』(遠藤宏之著、技術評論社)によると、この国の先祖は過去の自然災害を「地名というメッセージ」で残してくれた。東日本大震災の被災地をはじめ、全国津々浦々の〈津波地名〉〈崩落地名〉〈水害地名〉の何と多いことか。土地の恵みと災いの双方と共存し、地名に刻印した先人の声を聞かなければならない▼きょうの熊本地震本震発生から2年を前に、また悲報が届いた。大分県の山あいの集落で裏山が突如崩れ、麓の民家4戸を埋め尽くした。大量の土砂と転がる巨大な岩の圧倒的な重量感に息をのむ。JAの組合員と家族が含まれている。痛ましい限りである▼熊本地震では営農再開の先が見えない人たちが大勢いる。〈災害列島〉での助け合いの重さをかみ締める。
2018年04月16日
ガッツ石松さんの小紙「食の履歴書」に
ガッツ石松さんの小紙「食の履歴書」に抱腹した。子どもの時、カラスになりたかったのだと▼生まれた1949年は「団塊の世代」、現在の3倍近い269万人もの赤ちゃんが誕生した。都市にも農村にも子どもがあふれ、いつも腹をすかせていた。「自分もカラスなら、よその米や野菜を自由に食べられるのになあ」。ガッツ少年は周囲の田畑を眺めてはこう思ったそうである▼カラスは人の近くで生息しながら、いいイメージがない。だが昔は「神の使い」であった。神話によれば、神武天皇東征の折、〈ヤタガラス〉が道案内して建国に手柄を立てた。以来、勝利を導く鳥として縁起がいい。サッカー日本代表の胸のエンブレムに描かれる三本足の鳥のことである。その指揮官が電撃解任された▼監督交代が珍しくない世界とはいえ、本番を2カ月後に控えての更迭は穏やかでない。賛否両論が沸騰すると思いきや、世論は案外冷静であった。ハリルホジッチ氏が決定力不足の克服に採用した「縦に速い攻撃」は、やはり「靴に足を合わせる」戦術と多くが見ていたのか。日本人監督の下、再び「全員守備」「横攻撃」の伝統スタイルに戻るのか▼気になるのは、サムライブルーへの期待感の少なさである。勝負は諦めた方が負ける。羽生結弦選手に学びたい。
2018年04月15日
春の農作業本番
春の農作業本番。苦い記憶がよみがえる。それは耕運機での作業中に起きた。斜面の手前で折り返そうとした時、バランスを崩し横転した。あの時、耕運機ごと斜面に転落していたら…。多分この原稿は書いていない▼この国では、1日平均1人の農家が農作業事故で命を落とす。農林業は最も危険な業種で、高齢農家に被害が集中する。事故は当人だけでなく家族の人生も変える。平昌パラリンピックで金メダルを取った障害者ノルディックスキーの新田佳浩選手もその1人である▼新田選手は3歳の時、祖父の操作するコンバインに巻き込まれ左手の肘から先を失った。それでも翌年にスキーを始める。自分を責め落ち込む祖父に金メダルをかけてあげることが選手生活の原動力になった。悲願は、2010年のバンクーバー・パラリンピックで実現する。祖父亡き今回は、自分のため、家族のためにメダルを取ると言った▼「失ったものを惜しむ気持ちはない。今あるもの、持っているものを生かすことができれば成長できる」。その言葉に障害と向き合い、乗り越えてきた新田選手の強さを知る▼あなたの安全は家族の安心。不慮の事故や災害は日常に潜む。あの熊本地震からも2年。先が見えない人も多い。幾多の障害を前に進む力に変えてほしい。
2018年04月14日
石川啄木は新聞社を転々とした
石川啄木は新聞社を転々とした▼〈かの年のかの新聞の/初雪の記事を書きしは/我なりしかな〉〈京橋の滝山町の/新聞社/灯(ひ)ともる頃のいそがしさかな〉〈みすぼらしき郷里(くに)の新聞ひろげつつ、/誤植ひろへり。/今朝のかなしみ。〉。啄木は、函館日日新聞、北門新報、小樽日報、釧路新聞を経て、東京朝日新聞の校正係となる▼岩手県渋民村の小学校を首席で卒業した俊英は、16歳で盛岡中学校を中退。26歳で早世するまでの10年間は、まさに生活苦でじっと手を見る日々。石をもて郷里を追われた「天才詩人」は、生活破綻者であり、社会からのつまはじき者であった▼朝日時代の月給は25円で借金は1300円。今なら25万円の給料に対し1300万円もの借財か。友人知人に無心しては放蕩(ほうとう)を繰り返した。働けど働けど楽になるはずがない。一番の支援者にして被害者は言語学者の金田一京助。金田一家では「石川五右衛門」呼ばわりされた▼啄木の歌に「道を踏みはずした人間のやるせない直情」を見るのは作家の嵐山光三郎氏。その哀切が人の心をつかむ。肺結核で死の間際、心は愛憎半ばする故郷へ向かった。〈今日もまた胸に痛みあり。/死ぬならば、/ふるさとに行きて死なむと思ふ。〉。きょうの啄木忌に望郷の思いを重ねる人も多かろう。
2018年04月13日
先月亡くなったホーキング博士は
先月亡くなったホーキング博士は、独創的な宇宙理論を打ち立てた。独創的な農業技術では日本の「ホウキング博士」も負けていない▼アイガモ農法で知られる福岡県桂川町の古野隆雄さん(67)が、熊手を使った画期的な株間除草法「ホウキング(箒ing)」を開発し評判を呼んでいる。安くて簡単で効果は抜群。市販の金属製熊手を3本以上つなげて畝の上を引くだけ。作物は傷めず雑草だけが抜ける。100メートル2時間かかる除草が1分で済む。麦や大豆、野菜などいろんな作物に使え、費用は熊手代の数千円▼動画配信し海外からも反響が届く。先週末の実演会も盛況で「こんなに簡単に抜けるなんて」と感嘆の声が上がったという。草の出始めに3回ほどかけば収穫まで草取りから解放される。目からウロコの技術は、本紙「営農技術アイデア大賞2017」の優秀賞に▼雑草防除と地力維持を追究してきた。試行錯誤と創意工夫の中で編み出す「技術の自給」に農の醍醐味を見る。ホーキング博士は、人工知能(AI)が人間を超える危険性を警告したが、古野さんは「AIは認識までするが、その先の対策は百姓の技術」と言う▼「農業は面白くて深くてオモチャ箱のような世界、まだたくさんの宝がある」。楽しく手軽な除草で目指せイグノーベル賞。
2018年04月12日