西靖さん(MBSアナウンサー) なじみの店一人飯手早く 「安全網」は農業の本質

西靖さん

 校を卒業するまで岡山にいました。実家は今も岡山にあります。両親は全くお酒を飲まないので、家での食事は大人も子どもも基本的に同じメニューでした。晩酌がないので、食事はすぐに終わります。大学生の頃、友人の家で夕食をごちそうになった時に、友人のお父さんがおかずをつまみながらお酒をちびちび飲んで、「もうご飯はいいや」と言うシーンに驚きました。「晩ご飯」と言いながら、米は食べずにおかずとビールだけという食事を初めて知りました。

 そんなことがあったので、僕は今はほどほどにお酒を飲みますが、ちびちび飲みながら一人で長く過ごすというのは苦手なんです。原体験として食事は素早く済ますというのがあるんでしょうね。一人で外食する時は、かつ丼なんかをがっと食べて帰ります。3年前に結婚するまでは、99%外食でした。手早く済ませられるなじみの店が幾つかあって、そういうところで「いつものやつ」という感じで済ませます。ただ、店は厳選しているつもりです。

 一人の食事に時間をかけるよりは、ぱっと済ませて映画のレイトショーを観に行くとか、そういう風に時間を使いたいと考える独身時代でした。今は結婚して、息子も1歳半になり、家で嫁さんと一杯やりながら、昼間の子どもの様子を聞くのが一番穏やかな時間です。妻は晩ご飯には一品ですぐに食べ終わる丼物やラーメンは、スタイルとして嫌いなようです。

 お酒を飲まない家庭に育ったせいかもしれませんが、お米は好きなんですよ。母方の実家や父方の親戚が兼業農家で、米を作っていて、できた米を親戚に配ってくれます。「新米、とれたよ」と。そのおかげで、米はお店で買うのではなくて親族に分けてもらってありがたく頂くもの、という感覚があります。

 もちろん消費社会ですから、都会に住んでいる限り、野菜はスーパーに行って買うし、外食もしますが、親族に農家がいることで、基本的には「飢えない」サブチャンネルがある、という安心感みたいなものはあります。もし何か生活に困るような事態になっても、米は日本の食の根幹にあるものですが、こういう形で流通していることは他でもあるでしょう。田舎に戻れば何とか生きていけるという可能性もあります。

 業にはそんな「セーフティーネット」としての役割もあるように思います。日本の農業を強くするためには、どうしても商品性、流通性、付加価値ということがいわれますが、「セーフティーネット」としての農業の方が僕にはしっくりくるんです。命を支える、というのは農業の本質的な部分です。

 うちの田舎では次世代の農業の担い手が少なくて、不安に思っているのですが、一方で僕の周囲には、都会から田舎へ移住して農業や林業に従事する道を進もうとしている人は結構います。都市で給料をもらいながらの暮らしではなく、豊かな人生を送るための手段として何がいいのかを模索している若者たちに、農業が魅力的に映り始めているのかもしれません。

 味が渓流釣りなので、地方に出かけることがよくあります。そこにいる友人や知り合いと話す中で、都会での生活では見えない部分が見えてくることがあります。仕事以外の仲間が増えることで、視座が増えたように思います。遊びであっても土を触り、田舎の風景を目にし、地元の友人と交流することで、農業について感じることはたくさんありますね。(聞き手・ジャーナリスト 古谷千絵)

<プロフィル> にし・やすし

 大阪大学法学部卒業後、株式会社毎日放送にアナウンサーとして入社。報道取材、ラジオDJ、ナレーションなどを担当。2011年からは長寿番組「ちちんぷいぷい」のメインパーソナリティーに。現在はニュース番組「VOICE」のメインキャスターを務める。46歳。

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