種子法廃止 食料主権に重大な禍根

 食と農の未来が危うい。稲、麦、大豆の品種開発や普及を都道府県に義務付けてきた主要農作物種子法が、今月末で廃止される。民間参入を促すためだという。来年度は全県でこれまでの供給体制を維持するが、根拠法を失えば、将来の不安は拭えない。基礎食料の種子という「公共財」がビジネスに支配されれば、食料主権を脅かすことになるだろう。

 唐突な廃止劇だった。規制改革推進会議の廃止論に押されるように廃止法案が閣議決定されたのが昨年2月。2カ月後の4月には、わずか12時間の国会審議で成立した。改めて廃止の意味を問い直したい。

 農業の成長産業化をうたい、生産・流通・販売の自由化を進める政権にとって、種子も例外ではない。種子法廃止の政府側の言い分はこうだ。国策で食料増産を進めた戦後とは社会状況が違う。多様な要望に対応するには民間ノウハウが必要だ。だから民間企業の参入障壁になっている種子法を廃止する。

 民間の知恵や技術は大いに活用すべきだが、そもそも種子法に民間参入を阻害する規定はない。確かに一般企業が開発した稲の奨励品種はない。それは多額の費用と期間がかかり、市場性や採算が合わないという経営上の理由にすぎない。

 農水省は「競争条件の同一化」を掲げ、民間参入を促すために育種素材などの「知的財産」を企業に提供するよう促す。同省は、国益を損なう知財の海外流出や多国籍企業による寡占化、種子価格の上昇などの懸念を否定。種子供給の事務経費も引き続き地方交付税交付金で措置し、全都道府県が来年度予算案で前年同程度の種子関連予算を計上しており、廃止の影響はないと説明する。

 昨年11月の農水次官通達でも、都道府県の種子関連業務を直ちに取りやめることは求めていないと説明。一方で、民間事業者の参入が進むまでの間は、種子生産の知見を維持し、民間に提供する役割を担うと言及している。公的試験研究機関が種子ビジネスの「下請け」にならないか不安が募る。

 ただでさえ自治体は財政難に苦しむ。条例で優良種子の安定供給を継続する県もあるが、将来、法の切れ目が予算の切れ目とならないか現場は不安を抱える。民間参入に比例して公的機関の役割が縮小し、基礎研究が衰退することを危惧する。

 廃止に伴う国会の付帯決議では、主要農作物種子の生産・流通について都道府県の取り組みが後退しないよう地方交付税措置、国外流出防止、適正な価格での国内生産、特定事業者による種子独占が起きないよう求めている。こうした不安や懸念がある以上、担保する立法措置が取られてしかるべきだ。

 種子を制するものは食料を制する。食料主権をないがしろにする国は、食と農の未来に責任を持たない国である。種子法廃止はそれほど重い意味を持つ。

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