米追加関税 示唆するもの 食料安保を最優先に 日本金融財政研究所所長 菊池英博

菊池英博氏

 トランプ米政権が3月23日、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限措置を発動した。米大統領に安全保障を理由にした貿易制裁を認める1962年通商拡大法232条(国防条項)に基づくもので、追加関税は鉄鋼25%、アルミ10%。トランプ政権は日米自由貿易交渉(FTA)交渉を求めており、輸入制限を取引材料に交渉入りなどを迫ってきた場合、農業を守れるのか。食料安全保障の観点から毅然(きぜん)とした対応をすることが必要だ。
 

鉄鋼生産は激減


 トランプ氏は大統領就任前の選挙中から、安全保障と雇用維持を理由に保護主義の必要性を訴えていた。国民への約束を果たした格好だ。米国内で鉄鋼の需要は増えているが、国内の生産拠点は2000年に比べて17年には5割以上も減り、雇用も35%減った。輸入シェアは3割を超え、過去十数年間、業界全体で純損失に落ち込んでいる。

 アルミも同じような状況にある。国内需要が増えているのに、国内生産は激減し、輸入シェアが90%に達している。まさに国内産業破滅と雇用激減である。

 最も貿易赤字額が大きいのは対中国で、4000億ドル(42兆円)近くに上る。米通商代表部(USTR)は米経済の被害額を年500億ドルと断定し、情報通信機器や機械など約1300品目を対象に25%の関税を課す方針だ。

 トランプ氏が輸入制限措置を断行した背景には、グローバル化の敗者の票によって大統領に当選したことがある。勝者であるウォール街出身のコーン国家経済会議(NEC)委員長の反対を押し切って強行したのが印象的であり、ここに今回の対応の本質的問題がある。コーン氏は辞任した。

 米国は過去30年間も貿易赤字が続く。昨年の貿易赤字額は8000億ドルで、米国の主要報道機関や経済学者は適切な対策を示しておらず、グローバル化優先の政治家や識者が米国を破滅させてきたともいえる。

 円の米ドルに対する相場は過去5年で50%程度切り下げられ、円安ドル高となった。この恩恵を受けたのが自動車、鉄鋼であることが、日本を追加関税の対象にした大きな主因とみられる。安倍政権が進める超金融緩和の対外国の負の部分が表面化したのだ。
 

対日交渉へ圧力


 16年度の日本のカロリーベースの食料自給率は38%で、主要先進国で最も低い。それにもかかわらず日本政府は、トランプ氏が反対したTPPを米国抜きの11カ国で合意し、署名した。これに対して、米国側はしつこく日米FTA交渉に持ち込もうとしている。TPPを超える有利な条件で、米国の農産物輸出拡大が目的なのは明白だ。

 国民の生命と暮らしを守る食料安全保障こそ、国家の根本的な安全保障だ。「米国第一」を掲げるトランプ氏が安全保障の見地から輸入制限措置を課した教訓は、日本に改めて食料安全保障の重要性を投げ掛けるものといえよう。

<プロフィル> きくち・ひでひろ

 1936年生まれ、東京都出身。東京大学教養学部卒、旧東京銀行(現三菱UFJ銀行)を経て95年から文京女子大学(現文京学院大学)経営学部教授、同大学院教授。2007年から現職、『新自由主義の自滅』(文春新書)。

おすすめ記事

論点の新着記事

検索

e農サーチ e農サーチとは