熊本地震2年 営農再開阻む壁 復旧費負担重く…断念 補助限度超すケース続々 熊本県南阿蘇村河陽地区

応急工事したのり面。見た目は元通りだが強度に不安がある(熊本県南阿蘇村で)

 熊本地震で被災した一部農家が、農地などの復旧工事に多額の自己負担が発生することにより、農水省の復旧事業を辞退していることが分かった。農地災害復旧事業の補助費用は1アール当たり30万7000円が上限だが、熊本県南阿蘇村では高台や傾斜地で限度額を超えるケースが続出。村は「少なくとも数十人の農家が復旧工事を断念した」と明かす。発生から14日で2年。県内の被災農地の6割超で工事の発注が済み、復興の歩みが進む。一方で農家は、国の事業を活用できず、頭を悩ませている。(金子祥也)

 負担額500万円。崩落した阿蘇大橋から近い同村河陽地区で稲作を営む橋本一義さん(55)は、農地の復旧費用を聞いて耳を疑った。8筆(約1ヘクタール)あった橋本さんの水田はいずれも被災した。復旧可能な6筆(約80アール)が農地災害復旧事業の対象になった。熊本地震は激甚災害指定のため、国庫から9割補助が出る。橋本さんは自己負担は多くて200万円程度と踏んでいたが、実際の見積もりは2倍以上に膨らんだ。

 負担額が大きくなったのは、工事費が農地災害復旧事業の復旧限度額を超えたためだ。超過分は農家の全額負担となる。同省防災課は「限度額は低い水準ではない。超える農地が多数あるのは想定外だ」と話す。

 国は昨年6月、全国の被災状況を考慮し、1筆の面積で限度額を見直した。手間のかかる小規模な水田ほど限度額を引き上げた。仮にその見直しに照らせば、橋本さんの負担額は少なく済む。だが、2017年1月以降の災害が対象で、熊本地震は適用外だ。

 橋本さんはローンが残った自宅が全壊。農機の購入にも多額の費用をかけたため、「農地に数百万円もかける余裕がない」と厳しい表情だ。

 村には傾斜地や高台に水田が多くある。国の基準は、のり面が崩壊した部分はブロックを入れる補強工事が必要で、費用が高額になりやすい。村によると限度額を超えた農家はほぼ全員、事業を活用せず工事を中止した。隣の阿蘇市も畑の復旧で限度額を超えた農家が10~20人いた。

 村は苦肉の策で独自制度を用意。国の制度を使わず、工事を個人で発注しても復旧費用を1筆当たり30万円を上限に9割補助する。だが、その範囲で可能な工事は、国の事業で直した場合よりも強度が弱くなるのが難点。橋本さんは村の制度で3筆の水田ののり面を泥で押し固めた。土にセメントを混ぜ込むなどして強度は上げたが「豪雨などでまた崩れる可能性がある。国の事業を使ってしっかり直したかった」とこぼす。

 水田は形だけ、元の姿を取り戻した。だが、幹線水路が復旧しておらず、営農再開にはあと2年かかる見込みだ。「不安はあるが、もう一度、ここで米を作りたい」。橋本さんは懸命に前を向く。

 

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