石田衣良さん(作家) フレンチより家庭料理 質高く安全な国内青果物

石田衣良さん

 説の中では食べ物のシーンについてあれこれ細かく書いたりしますが、僕自身はそんなに食にうるさい方ではありません。ですから、担当の編集者が高級なレストランに連れて行ってくれるんですけど、その時はおいしいと思っても、すぐに忘れてしまうんですよね。

 正直言うと、料理やワインにものすごく詳しい人のことはうらやましいと思いつつも、うさん臭く感じてしまうんです。3万円のフレンチとか言われると、ムカッとしちゃう感じ(笑)。自分の中に庶民派代表みたいな気分があるんでしょうね。

 僕が好きなのは簡単な家庭料理。ご飯炊いて、野菜炒めとかおひたしを作って、みそ汁があって……というようなのが一番おいしいですね。

 理はよくするんですよ。家庭料理は一通り、自分で作れます。楽しいですよね、作ったものを家族が食べてくれるって。

 最初に作ったのは、高校2年生の時。伊丹十三さんのエッセーを読んで、料理ができるというのは素晴らしいと思ったからです。パスタとミモザサラダを作りました。ゆで卵を細かく刻んで、サラダの上にかけるやつですね。最初に作ったカレーはタイかどこかのペーストだったんですけど、ショウガを使ったらおいしくなるだろうと思って入れたら、量を間違えて(苦笑)。

 僕は辛い物がすごく好きなんですよ。ラー油はあれこれ試してみて、どれもそんなに変わらない、1瓶に500円出すなんてバカバカしいということが分かりました。ラー油と一味唐辛子は、スーパーに行って5本くらいずつまとめて買います。

 年を取るにしたがって、野菜がおいしく感じられるようになってきました。サラダなんて若い頃はね、おまけみたいなものとしか思ってなかった(笑)。でも今は、おいしいサラダのために自分好みのドレッシングを作りますからね。オリーブオイルと酢と塩、それぞれの割合を変えたり、他の何かを加えたりして楽しんでいます。トウバンジャンを使ったり、ごま油を入れたり、ラー油だったり。

 実家がスーパーをやっていたので、野菜と果物選びには自信がありますね。適当に4個選んで20グラムか30グラムの誤差で1キロにするなんていうのは得意でした。メロンを裏返してお尻を触って匂いを嗅げば、熟しているかどうかすぐに分かります。

 うした知識は、割と小説の中に生かせていると思います。『池袋ウエストゲートパーク』の主人公は実家の果物屋を手伝っていますし。

 もちろんこの特技は、近所のスーパーで買う時にも生かしています。リンゴを切ってみたら、中が蜜で半透明になっていたりするとうれしいですね。

 これはすごくぜいたくなことです。日本の野菜や果物は、ものすごくおいしい。その中からさらに選ぶわけですから。

 簡単な家庭料理がおいしいというのも、食材の質が高いからなんです。特にこだわらずに普通に選んで買っても、安全な上においしい。すごく高レベルのものを食べられます。これが日本の素晴らしいところだと思いますね。

 小説ですと、苦労して書き上げたものがいまひとつだったり、逆にすっと書いたものの出来が良いということがあります。この辺り農業は違うでしょう。農産物は、手をかけるほど良くなりますよね。日本の農業は、コツコツ勉強し努力した方々が支えているわけです。その人たちに続く若い力をいかに生かしていくか。今の高いレベルを保って、日本の食を守ってもらいたいと願っています。(聞き手・菊地武顕)

<プロフィル> いしだ・いら

 1960年、東京都生まれ。97年に『池袋ウエストゲートパーク』でオール讀物推理小説新人賞受賞。同シリーズはドラマ化もされ、現在も続くヒット作だ。2003年『4TEEN』で直木賞受賞。代表作の一つ『娼年』が映画化され、現在公開中。

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