真価問われる「家族農業の10年」 FAOが巻き返しへ 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏

 国連は2017年末、19~28年を「家族農業の10年」と定めた。14年に定めた「国際家族農業年」を10年間延長するというもので、国連食糧農業機関(FAO)などが国際的キャンペーンを展開してきた成果である。しかし、このことが、ただちに各国で小規模・家族農業が政策の中心に位置付けられつつあることを意味するわけではない。

 これは、米国主導の世界銀行、国際通貨基金(IMF)の開発援助を通じて多国籍企業などが途上国の農地を集めて大規模農業を推進し、流通・輸出事業を展開して途上国農村をもうけの道具とする流れに対抗したFAOの反旗ののろしなのである。

 FAOは途上国の農業発展と栄養水準・生活水準の向上のために設立され、各国の小農(家族農業)の生活を守り、豊かにするinclusive(あまねく社会全体に行きわたる)な経済成長が必要と考えたが、米国には余剰農産物のはけ口が必要で、また米国発の多国籍企業などが途上国を食い物にするたくらみとはバッティングする。そして、FAOは1国1票で途上国の発言力が強いため、米国発の穀物メジャーに都合が良い「援助」政策を遂行できないことが分かってきた。

 そこで、米国主導のIMFや世銀に、FAOから開発援助の主導権を移行させ、「政策介入によるゆがみさえ取り除けば市場は効率的に機能する」という都合のいい名目を掲げて、援助・投資と引き換え条件(conditionality)に、関税撤廃や市場の規制撤廃(補助金撤廃、最低賃金の撤廃、教育無料制の廃止、食料増産政策の廃止、農業技術普及組織の解体、農民組織の解体など)を徹底して進め、穀物は輸入に頼らせる一方、商品作物の大規模プランテーションなどを、思うがままに推進しやすくした。しかも、強制したのでなく当該国が「自主的に」意思表示したという合意書(Letter of Intent)を書かせた。

 FAOは弱体化され、真に途上国の立場に立った主張を続け、地道に現場での技術支援活動などを続けてはいるが、基本的には、食料サミットなどを主催して「ガス抜き」する場になってしまった。今でも、飢餓・貧困人口が圧倒的に集中しているのはサハラ以南のアフリカ諸国であり、この地域がIMFと世銀のconditionalityにより、最も徹底した規制撤廃政策にさらされた地域であることからも、「政策介入によるゆがみさえ取り除けば市場は効率的に機能する」という新古典派開発経済学の誤りは証明されている。というか、そもそも、貧困緩和ではなく、大多数の人々から収奪し、大企業の利益を最大化するのが目的だったのだから、当然の帰結なのである。

 「家族農業の10年」はFAOの決死の巻き返しである。これをスローガンに終わらせてはならない。米国主導の穀物メジャーなどが都合良くもうけるための農業・農村支援の名の下の収奪の現状から脱却し、真に小規模・家族農業を再評価し、政策的に支援する方向性を本当に具体化できるかどうか、闘いはこれからである。

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