防げ農作業事故 今こそ厚生連の出番だ

 田植えが各地で始まり、農作業事故が頻発する時期に入った。提案したいのは、農家の健康を守る各地のJA厚生連病院の関与だ。農作業事故で来院した患者データを蓄積して行政や研究者、メーカーに伝達、現場を改善する仕組みを作れないだろうか。「安全知識循環社会」を構築したい。

 農水省によると2016年は5月に39人が農作業事故で亡くなった。事故が起きても、その教訓が現場で生かされなければ悲劇は毎年続くことになる。

 模範にすべきは産業技術総合研究所が実践する、子どもの事故を予防する仕組みだ。同研究所人工知能研究センターの西田佳史首席研究員は、事故を防ぐには「安全知識循環社会」をつくることが大切だと提唱する。

 この仕組みは一つの「輪」のようになっている。重大事故が発生すると、受け入れた病院が事故のデータを収集し、情報を研究所やメーカーに伝達し、商品や環境の改善につなげる。自治体や地域にも還元し、事故防止に生かす取り組みだ。

 実際、長崎県大村市では11年に「Love&Safetyおおむら こどもを事故から守るプロジェクト」が立ち上がった。同市医師会を中心に警察、消防、教育・研究機関、市民、メーカーなどが連携し、自転車事故の予防などにつなげている。西田氏は「重大事故が発生しても病院で治療が終わってしまえば、肝心の事故情報は伝達されない。発生要因はそのままになり、同じ事故は繰り返される」と指摘する。

 農水省がまとめる農作業中の死亡事故調査は、道府県の職員が厚生労働省の人口動態調査に基づく死亡小票を見て確認するため、公表はいつも2年遅れとなる。これでは現場で重大事故が起きても、即効性のある対策は取れない。今、どんな事故が起きているのか。どんな傾向があるのか、どんな作業に注意しなくてはならないのか。病院のリアルなデータを基に事故状況を把握すれば、現状をより正確に映し出せるはずだ。

 そこで、農作業事故の情報をタイムリーにつかめるJAの厚生連病院が中心となって農家の命を守る仕組みを作れないだろうか。蓄積したデータは行政や地元の消防署や警察署、研究機関、農機メーカー、地元JAなどに還元し、地域で安全の輪をつくりあげるべきだ。

 JA長野厚生連佐久総合病院の理念は「農民とともに」。行動目標は「農業と地域社会の問題を直視し(中略)、地域の内発的発展に協働します」とする。命を守る試みは厚生連の自己改革にもつながるはずだ。

 最も危険な職種である農業を最も安全な産業にしなければ、農の担い手は育たない。人間はミスをする生き物だ。これを前提とした対策の構築が急務だ。「気を付けましょう」「注意しましょう」と連呼するだけでは事故は減らない。今こそ厚生連の出番だ。

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