17年度農業白書 生産基盤回復へ総力を

 生産基盤の縮小は今突き付けられている国家的な課題である。農業白書はどう向かい合ったのか。若い農業者の増加という明るい兆しもあるが、基盤回復への“覚悟”と、骨太の道筋が見えない。農産物輸出への高い期待値の一方で、食料自給率向上や食料安全保障に関する記述に物足りなさが残る。

 安倍晋三首相は、1月の施政方針演説で「攻めの農政」の成果として以下の3点を挙げた。▽5年連続で過去最高を更新した農林水産物輸出▽過去18年で最も高水準の生産農業所得▽3年連続で2万人を突破した40代以下の若手新規就農者――。斎藤健農相の国会での所信表明もほぼ同様だ。2017年度農業白書もこれを踏襲し、冒頭に若手農業者の特集まで組んだ。

 農業の過渡期に、現場の好ましい変化を捉え前向きなメッセージを発信するのは大切だ。若い新規就農者の増加は、農水省が創設した農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金)の政策効果もあろう。一方で、70歳以上が全体の3分の1超の50万人に上り、膨大な離農現象が進行中であることも現実だ。この危機感も伝えてほしい。

 農業が今直面する最大の問題は、歯止めがかからぬ生産基盤の縮小だ。特に畜産、酪農、野菜、果樹、地帯別では高齢化と人口減が著しい中山間地域の“総崩れ”が懸念される。

 そうした中、16年の農業総産出額は2年連続増え、16年ぶりに9兆円台を回復した。農家所得に相当する生産農業所得も1999年以来最高となった。その背景にあるのは、生産の縮小による農産物価格の上昇だ。これをどう捉えるべきか。

 価格上昇は、生産者側からすれば長く続いてきた“農業デフレ”からの脱却であり、励みになる。だが、産地の縮小によって実現しているのなら、手放しで喜べない。白書は、総産出額増大の要因分析に踏み込んでいない。代わって「専ら国内需要を念頭に置く農業生産から、世界需要も視野に入れた農業生産」への意識の転換を説く。政権が力を入れる輸出に無理やり結び付け、違和感がある。

 生産基盤縮小の要因で見過ごせないのは、雇用労働力の不足だ。規模拡大が進むと法人経営でも個別経営でも、栽培管理、収穫、出荷調製で雇用労働力が欠かせない。ところが露地野菜、園芸、畜産、酪農を中心に人手の確保に困り、規模拡大の障害にすらなっている。白書によれば、経営に意欲的な若手農家が、最も関心を寄せる施策が労働力の確保だった。

 生産労働人口の減少に伴い、人手不足は全産業に共通し、今後ますます深刻になる。農政の主要課題の一つになっていくだろう。JA、法人がさまざまな工夫に乗り出しているが、国は現場任せにせず、民間の前向きな動きを支援すべきだ。

 国内需要に安定的に応える生産基盤なくして、食料安全保障も輸出の拡大もあり得ない。 
 

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