矢野浩二さん(俳優) 中国に活路 名声得る 日本人に合う“東北料理”

矢野浩二さん

 優としての活躍の場を広げようと、2001年から北京に移り住んでテレビや映画に出演しました。

 食べ物については意外と適応できましたね。中国は広いから、各地にいろいろな食文化があります。北京の料理は東北料理といいまして、これは比較的日本人の口に合っているんですよ。

 日本の家庭料理的な煮物が多いんです。乱煮(ルアンドゥン)という料理があって、これは鍋の中にジャガイモ、ニンジン、サヤエンドウ、牛肉、春雨などを入れた上でトマトを大量に加えて一緒に煮るんです。ご飯にかけて食べるとおいしくて。

 移住当初はそんなに仕事がなかったので、20元、約300円でおなかがいっぱいになる乱煮はありがたかったですね。

 食べやすいとはいっても、毎日毎食中国料理ですと、30年間日本料理を食べて来た身としては、日本の食事が恋しくなります。でも高いんですよ。王府井(ワンフーチン)という繁華街に回転ずしがあって、サーモン丼というのを出していました。これが40元。どうしても食べたくて、月に1回だけ通ってふるさとを味わっていました。

 北京では火鍋も名物です。羊肉のシャブシャブを、ごまだれ、ポン酢、それと海鮮だれといって海鮮風味のオイルっぽいたれの3種類のたれにつけて食べる。これも大好物でしたね。

 火鍋といえば、度肝を抜かされたことを思い出しました。まだ中国に渡って最初のころのことです。中国人女性の友達から食事に誘われ、鬼街(グイチエ)という繁華街に行きました。火鍋店が並ぶストリートなんですけど、ほとんどがザリガニを食べさせるんです。

 に入り彼女が注文すると、鍋とザリガニが30匹! 彼女は食べ方を教えるから見ててと、慣れた手つきでパカッと胴体を割って頭は捨て、尻尾の部分の殻を取って白い身を引き抜いてパクッと。僕も食べてみたらおいしかった。臭みがないし、サンショウの効いた味付けもよい。でも……彼女は一つ食べたら止まらなくなっちゃって、見る見るうちにテーブルがザリガニの死骸だらけになっていったんです。彼女、結構きれいな人なんですよ。そのアンバランスな様子を見ているうちに、こっちは食欲がなくなって。2人で60匹くらい食べたんじゃないですかね。そのうち僕が食べたのは5匹くらい(笑)。

 仕事としては、戦争時代の日本軍人を演じることが多く、地方の農村や山奥での撮影をたくさん経験しました。ロケでは日本のようなお弁当はなく、大きなアルミのおわんにご飯をよそい、その上におかずをかけて食べるんです。見た目は良くないけどおいしかったですね。ただし毎日ほぼ同じ料理を食べさせられるのが辛かった。

 の河北省の山奥、零下20度の環境での撮影をよく覚えています。食事は炒め物とスープ。炒め物には常にショウガが入り、トウバンジャンを使った辛い味。スープにはショウガと卵が入っていてあっさりした味付け。どちらも冷えた身体に染みてくるんです。

 草原ばかりの内モンゴルで撮影したこともあります。電気も通っていないような場所で、食べ物は骨付きの牛肉をゆでたものばかり。炭水化物はないんです。それが毎食。どれだけお米を食べたいと思ったことか。

 一昨年から日本での活動を中心にしました。こちらのロケ弁は、毎食飽きないように工夫されています。何て恵まれてるんだろうと感謝しつつも、時々、中国の田舎での過酷な条件での食事を思い出したりしますね。(聞き手・写真 菊地武顕)
 

<プロフィル> やの・こうじ


 1970年、大阪府生まれ。2001年に単身中国に渡る。13年に「ニューヨークタイムズ」「CNN」で「中国で最も有名な日本人俳優」として紹介される。15年に外務大臣表彰。現在「警視庁・捜査一課長シーズン3」と、WEB「SPECサーガ完結篇 SICK’S」(パラビ)に出演中。 
 

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