[狙う日本市場 豪州の戦略 5] TPP11の影響、課題を聞く

金子勝氏

エフゲニー・ポスニコフ氏

 米国を除く環太平洋連携協定参加国による新協定(TPP11)が農畜産物の輸出入の動きをどう変えるのか。オーストラリアと日本の識者に両国間の農畜産物取引の影響や課題を聞いた。
 

牛肉には最大の恩恵 メルボルン大学社会政治学部講師 エフゲニー・ポスニコフ氏


 輸出に頼るオーストラリア農業にとって、TPP11は大きな可能性を秘めている。特に日本は購買力が高く、有望な市場だ。これまで日本市場は内向的で保護されてきた。それが、開放されるとみている。米国の参加を待たず発効を急ぎたいのが、オーストラリア農業界の認識だ。

 最も恩恵を受ける品目は牛肉だ。関税が下がることで日本への輸出を増やせる。米国産との関税格差も広がる。次に、チーズなどの乳製品だ。競合する米国の参加がなく、最適な条件がそろう。小麦も、日本の麺消費が底堅いため注目している。米は特別枠こそ少ないが、一定に増やせるだろう。米生産は干ばつの影響を大きく受けるが、生産技術の向上や品種開発で乗り越えてきた。日本市場で十分に商機がある。

 オーストラリアは輸出余力が大きく、多くの農畜産物をまだまだ日本に提供できる。現在、クイーンズランド州北部に農業地帯を広げる計画がある。政府は日本を含むアジアからの旺盛な需要を受け、その地域で生産を増やしたい考えだ。

 TPP11を日本の生産者が否定的に受け止めているのは知っている。ただ、これから日本の生産者は競争力を求められる時代に入る。
 

「戦略」踏まえ対策を 立教大学経済学研究科特任教授 金子勝氏


 大規模生産による安さに、品質を求め始めたオーストラリアの輸出戦略は非常に脅威だ。政府が示したTPP11による国産農畜産物への影響試算は楽観的に映る。根拠も説得力に欠く。同国の戦略を加味して、試算をやり直すべきだ。

 関税が大幅に下がる牛肉では、赤身肉に加え、良食味の「WAGYU」などの輸入が増えていく。安価な輸入肉の出回りが多くなれば、酪農にも打撃を与える。酪農家が出荷する乳用雄牛や乳廃用牛の枝肉価格を引き下げる要因になる。

 輸入米はこれまで主に中粒種で、国産と形状が違うためブレンドして使用するにも、課題があった。だが短粒種なら使いやすく、原料コストを下げたい外食が取り扱う。一定量でも安い輸入米が加われば、国産米価の下落を招きかねない。

 日本人の嗜好(しこう)に合わせた農畜産物の輸入が増えることになる。低価格志向を強める消費者は、輸入品を選びかねない。TPP11の国内対策として政府が掲げる輸出戦略や、肉用牛肥育経営安定特別対策事業(牛マルキン)の補填(ほてん)割合の引き上げだけで、生産者を守ることができるのか。大きな疑問が残る。

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