米朝首脳会談 険しい核なき和平の道

 新たな歴史の一歩になるのか。壮大な政治ショーで終わるのか。史上初の米朝首脳会談は「朝鮮半島の完全な非核化」などで合意した。だが共同声明は、具体的な道筋に触れておらず、実効性は不透明だ。曖昧な妥協が禍根を残さないか検証が必要だ。拉致問題の提起はしたが、明確な進展はなお見通せない。核、ミサイル、拉致問題の完全解決に向けた和平プロセスは緒についたばかりだ。

 それは現代史に刻まれる歴史的瞬間だった。トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長が、シンガポールの地で初めて相まみえ、握手を交わした。つい半年前まで口汚く挑発し合い、一触即発の軍事的緊張のただ中にあった両国である。まだ出発点にすぎないが、包括的な合意文書に署名し、共同声明を出したのは前進といえる。

 両首脳とも政治的思惑を抱え初会談に臨んだ。トランプ氏には、年末の中間選挙をにらみ、外交で得点を稼ぎ、歴史に名を残したいという野望。金委員長には「非核化」の見返りに体制保証と経済支援を引き出す狙いがあった。共同声明は両者の政治的妥協の産物でもあった。

 北朝鮮の非核化は一筋縄ではいかない。核やミサイルの廃棄を巡る国際合意は何度も破られてきた。今回も「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」が確実に担保されたとは言い難い。一方で制裁は継続するものの、米国が北朝鮮に体制保証を約束したことは拙速ではないか。

 完全非核化の成否は今後の工程を見守る必要がある。特に明確な期限の設定、完全な核査察の受け入れ、全ての核兵器・各施設の廃棄などの実行が焦点となる。日本にとっては短・中距離の弾道ミサイルや生物兵器の廃棄も絶対条件である。

 非核化は期限付きの実行プロセスがなければ空文化する。北朝鮮が段階論で時間稼ぎをし、その間に制裁緩和と経済援助を引き出す狙いなら、過去の失敗を繰り返すだけだ。拉致問題への言及も不十分で、日本にとっては、経済・食料援助などいいとこ取りをされかねず、対北朝鮮戦略を主体的に練り直す時に来ている。

 非核化と表裏にある朝鮮戦争の終結も残された課題だ。それが平和協定、南北統一へとつながり、真のアジアの平和と安定につながるのか見極めていきたい。中国の軍事的台頭や北東アジアにおける米軍の関与が低下すれば、どんな事態を引き起こすか。日米同盟の変質とその影響まで見定めた中長期的な安全保障戦略が日本に求められる。歴史的な転換期にあって、これまでのような対米追随一辺倒の経済・安全保障政策は通用しないだろう。

 現代史の歯車が大きく動きだした。長く困難な交渉の始まりでもある。アジアの平和を希求しながら、分断と覇権の歴史に終止符を打ち、核、ミサイル、拉致問題の完全解決に踏み出さなければならない。
 

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