若者確保 労働力不足解消の鍵 輝ける場つくって

食堂「早和なでしこ」で歓談する秋竹さん(後列右から2人目)と若手社員ら(和歌山県有田市で)

牛の世話をする土井さん(左から3人目)と緒方さん(右)ら(静岡県富士宮市で)

 やる気のある若者を逃がすな──。労働力不足が深刻化する中、雇用条件を若者の要望に合わせる農業法人が、若い働き手の確保・維持に成果を上げている。業務を細分化して選択の幅を広げたり、希望に応じた部門を新設したりすることで、やる気を引き出し事業拡大にもつながっている。若者に寄り添う柔軟路線への転換が、安定的な雇用確保の鍵を握る。(高内杏奈)
 

要望 基に部署新設 和歌山県有田市


 和歌山県有田市でミカンの栽培と加工を手掛ける早和果樹園。いち早く6次産業化に取り組む先進的な農業法人だ。社員70人のうち4割が20代だ。また、社員の6割を女性が占める。経営者の秋竹新吾さん(73)は社員のやりたいことを尊重する。2013年に従来の生産部と加工部に加え、営業部と総務部を新設。さらにそれぞれの部を仕事内容に応じて約10の課に細分化。品質保証課やネット販売をするEC事業課などを設けた。

 配属は面接で希望を聞き、考慮する。EC事業課の藤原良太さん(25)は、入社時は生産部にいたが「栽培したミカンのおいしさを伝えたい」と希望し、異動した。「動画やインターネット交流サイト(SNS)などでPRしている。自分のアイデアを生かせるので仕事が楽しい」と笑顔を見せる。

 海外で販促活動をしたいという若者のために海外班も新設した。中国や米国など約10カ国にミカンのジュースやゼリーを販売している。秋竹さんは「社員には、やりたいことに挑戦させている。失敗しても新たなビジネスのきっかけになる」と話す。

 13年の売り上げは4億円だったが、若者の挑戦が新たな事業につながり17年には9億円に増加した。求人の問い合わせは年間150人を超す。

 秋竹さんは社員食堂「早和なでしこ」を子会社として設立。65歳以上の人はこちらに異動してもらう。世代交代を進めるとともに、食生活が乱れている若手社員向けの福利厚生の一つとする。
 

目標立て課題共有 静岡県富士宮市


 「若者は言われたことをやるより、自分の目標に向かって計画を立てて進むことを好む」と話すのは、静岡県富士宮市で80頭の乳牛を飼育するDOI FARMの経営者土井智子さん(51)。20代を中心とした7人の女性社員を雇用している。17年度から半年ごとに個人面談をしており、社員の目標を明文化している。

 毎年4月にやりたいことを聞く。「誰よりも早く牛の病気に気付けるようになる」と目標を設定する社員がいれば、日誌のやりとりをして、相談にも乗る。研修会にも積極的に参加させ、半年ごとに面談して進捗(しんちょく)状況を確認する。さらに月に1回全体会議を開き、仕事の状況や挑戦したいこと、悩みを共有する。

 社員の緒方亜紀奈さん(21)は「仲間と切磋琢磨(せっさたくま)している。毎年目標を立て、達成できるように仕事するのでスキルアップにつながる」と手応えを感じている。

 この二つの農業法人は作業・雇用環境の改善が評価され、日本農業法人協会の「農業の未来をつくる女性活躍経営体100選(WAP100)」で認定されている。

 農水省は農業経営者向けに働き方改革の指針をまとめた。優良事例をホームページ上で公開し、若者のニーズに合わせた働き方を導入するよう促している。
 

やりがい感じる環境に


 農村の雇用問題に詳しい東京家政学院大学の上村協子教授の話

 農業を勉強するために大学に行き、志を持って就農する人が増えた。農業法人は、若者のやりたいことができるように体制を整えていくことで、若者の能力を経営に生かすことができる。

 人材育成では一般企業と同じようなキャリアアップ制度で「やりがいがある」と思ってもらわなくてはならない。評価制度と連動した給与体系や能力向上ができるような研修を導入し、若者のモチベーションを向上させる必要がある。

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