見回り厳禁 大雨時の田畑、水路 予報確認、備え事前に

集中豪雨で壊れたため新設した水路のゲートを確認する田村さん(右)と河内さん。柳川さんがいつも開け閉めしていたという(広島県北広島町で)

 毎年のように、大雨の最中に農業用水路や川、田畑を見回りに行き、転落するなどして農家が命を落とす事故が発生している。昨年の梅雨時、水路維持の担当者が犠牲になった地域は「死を教訓に」と誓い、天気予報を見て大雨の前に水門を開閉するなどして備え、雨が降っているときには田畑や水路に近づかないことを徹底する。専門家は、ヒヤリ・ハットの共有など、地域で話し合う大切さを指摘する。(尾原浩子)
 

死亡事故「二度と…」 広島県北広島町


 広島県北広島町川戸地区の農家、河内聰さん(65)が悲しそうにうつむいた。「雨音が強まると、黙々と草刈りをしていた周郎の姿を思い出すよ」。農業用水路の管理責任者だった柳川周郎さん(享年67)。昨年7月5日、集中豪雨の最中に亡くなった。地域住民によると、川の増水を確認しに行き、転落したと見られている。

 親戚でもある河内さんによると、柳川さんは水路に木くずが落ちていると丁寧に掃除をするなど、寡黙で責任感が強い人柄だったという。1人で暮らしていた自宅は今、空き家になってしまった。

 高齢化率41%、517人が暮らす中山間地の同地区。水路の管理責任は、歴代、日中でも見回りができる数少ない専業農家がボランティアで担ってきた。

 柳川さんに草刈りを依頼していた農事組合法人「せんごくの里」の組合長、田村誠さん(58)は今でもはっきり、柳川さんが亡くなった時の豪雨の恐怖を覚えている。

 午前6時前に高齢の農家から「雨がひどいので、見てくれないか」と電話で相談を受け、田村さんは田畑を確認するため外に出た。田んぼと水路の境目が分からないほどの豪雨で、視界が狭くなっている。川は濁流で増水し、道は滑りやすく、まともに歩けない。そんな状況にもかかわらず、かっぱを着てくわを持ち田んぼに向かう高齢農家の姿を見た。高齢農家にはすぐに家に戻るよう促し、田村さんも自宅に避難した。

 田村さんは「都会の人から見ると大雨の日に見回りに出る農家を理解できないかもしれない。でも、農家にとって田畑は先祖から受け継いできた財産。家でじっと雨がやむのを1人で待つのはすごくつらい」と代弁する。

 だが、柳川さんの死によって、豪雨時に川や水路に近づくことは、地域をよく知る担い手や高齢者でも命を落とす危険な行為だと痛感した。

 田村さんは「絶対、集中豪雨のときは見回りは駄目だ。地域には取り返しがつかない痛手、悲しみになる」とかみしめる。

 60代の農家は地区にとって若い担い手だけに、河内さんは「周郎の死を教訓にする」と言い切る。今、柳川さんに代わり水路を見回る河内さんは、雨が強いときは水路や田畑には近づかないことを徹底している。

 田村さんも、天気予報で大雨になるのは事前に把握できることから、気象情報を把握し、大雨時は田畑に近付かないことを組合員と共有する。もうすぐ柳川さんの一周忌。二人は「二度と同じ悲しみを繰り返さない」と誓う。

 気象庁は「小まめに気象情報をチェックして事前準備に生かし、豪雨の最中は田畑や河川に近づかないでほしい」と注意を促す。同庁は6月から新たなスーパーコンピューターの運用を始め、これまで6時間先まで予測できた1時間雨量を15時間先までに延長。今後は現状から2日延ばし、5日先までの台風の進路が分かるようにもする。

 梅雨時の災害は毎年、発生している。同庁は「梅雨の末期や台風接近時の集中豪雨は今年も厳重な警戒が必要となる」としている。
 

地域内で議論必要


 東京農業大学の本田尚正教授の話

 水田や集落を熟知している農家が「ちょっと見てくる」と言って被害に遭っている。豪雨や災害時に見回った時のヒヤリ・ハットの経験を報告し合ったり、災害になった地域の天気図や雨雲の動きを見たりするなど、地域で話し合いをしてほしい。防災担当の行政職員や、天気図が分かるJA職員らがコーディネートするのが有効だ。

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