その朝、作家の辺見庸さんは

 その朝、作家の辺見庸さんは、地下鉄サリン事件の現場に居合わせた▼横たわり、もがき苦しむ大勢の人々。それを横目に通勤を急ぐ人。駆け付ける駅員、警察、記者。誰もが職務に忠実で、指示する者とされる者の関係で動いているように見えた。猛毒をまいた者でさえ。なぜ狂信的なカルト集団が生まれ、未曽有の犯罪を引き起こしたのか。辺見さんは、オウム事件を突き詰めると、われわれ自身に行き着くと述懐した▼その首謀者・麻原彰晃死刑囚ら7人の教団元幹部に死刑が執行された。麻原教祖は空中浮遊のまね事をし「最終解脱者」を名乗った。「人類最終戦争」と社会不安をあおり、「ポア」と称する無差別テロを繰り返し、軍事力による国家転覆へと突き進んだ。多くのエリート、社会で居場所を失った若者たちが、ブラックホールに吸い込まれるように信者になった▼マインドコントロールとは心を支配すること。個を捨て服従すること。それが忍び寄る素地は今も多い。いくつもの「なぜ」は残され、真相も解明されていない。死刑をもって平成とともに事件が去るわけではない▼最寄り駅に飾られた七夕の短冊に幼い文字があった。「毎日幸せでありますように」。幸せが絶たれた多くの犠牲者の冥福を祈り、事件の根絶を星に願う。 

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