金田一秀穂さん(言語学者) 初対面の人には食の話を 好きな朝ご飯で親近感

金田一秀穂さん

 国人と話す機会が多いんですよ。パーティーで初めて会った人に「どこから来たんですか?」「何をしに日本に来たんですか?」という質問は、あまり好まれません。彼らはその質問を繰り返されているから。僕は食べ物の話をします。それで打ち解けて、いろいろ大切な話をすることができるんです。

 大学のゼミの初日に学生に自己紹介させる時には、必ず「理想的な朝ご飯」を話すように言ってます。白いご飯におみそ汁。おかずはサケがいい、干物がいい。納豆は必ず欲しい。卵かけご飯が好き。私はトースト派などなど。好きな朝食を披露すると、その人のことを身近に感じることができていいですよ。

 私の好きな朝食は……。

 アメリカでなら、トースト、卵2個のターンオーバー(目玉焼きをひっくり返して裏も焼く)にソーセージ、オレンジジュース、たっぷりとしたコーヒー。

 アジアの場合ですと、朝食は外で食べるという国が多く、私もホテルから出て人々がたくさん集まっている店や屋台に足を運びます。

 北京ではおかゆ。赤豆腐(豆腐を熟成発酵させたもの)をちょっと載せるとフワーッと溶ける。それにザーサイとピータンを入れて、揚げパンと食べます。

 ベトナムなら、焼きたてのフランスパンに取ってきたばかりの卵で作ったオムレツを詰めたサンド。カフェの椅子は、まるでお風呂場の椅子みたいな小さなもので、テーブルも低い。そこに座って人々が自転車で行き来するのを眺めながら食べると、幸せを感じます。

 は、自宅の理想の朝食はというと、ミューズリー。これは麦でできたシリアルで、ドイツ語圏で食べられるものです。ナッツやドライフルーツを入れて、ヨーグルトをかけて食べます。繊維質を多く含んでいて、便通が良くなり健康的。どんなに食欲のない時でも食べられます。

 仏陀が悟りを開いた後、女性から乳がゆを作ってもらいそれを食べておいしいと言ったといいますよね。僕のミューズリーも、いわば乳がゆと同じものですよ。それで「仏陀の食事」と称していろんな人に勧めてます。

 でも、試した人は必ず「金田一さん、あれは駄目だ」と言うんです。家族は白いご飯を食べていて、ミューズリーのことを「鳥の餌」と呼ぶし……。

 こういう朝食を好んで食べているからといって、僕は日本的な食事が嫌いだというわけではありませんよ。例えば粘るものが大好きですしね。粘り気のあるものって、日本以外ではあまり食べないでしょう。中国の納豆はパラパラしてますし、オクラはイスラム圏以外では粘り気を取って食べるそうです。

 僕は「粘り気番付」を作ってましてね。東の横綱が納豆。西の横綱はジネンジョ。東の大関がメカブで、西の大関はレンコン。そして勧進元は餅! 餅はあまりに好きなんで、僕にとっては別格の扱いなんです。

 ューヨークで暮らしていた時のことです。年越しの時期に母を招きました。それで日本の食品を扱う店に行き、のし餅を買ったんです。高かったんですけど、こんなこともめったにないだろうからと。

 母も妻も子も寝静まった夜中、なぜか目が覚めてしまいました。ふと「お餅があったよな」と思ったら、とにかく食べたくなり止まらなくなって。少し切って、電熱器に網をのせて焼き始めたんです。煙が出始めたら突如、ビヤーーーッと火災報知機がものすごい音を鳴らしだしたんです。慌てて起きだした皆から、大笑いをされました。(聞き手・写真 菊地武顕)

<プロフィル>きんだいち・ひでほ

 1953年、東京都生まれ。杏林大学外国語学部教授。東京外国語大学大学院修士課程を修了し、大連外国語学校、コロンビア大学などで日本語を教えた経験も。みちのく盛岡ふるさと大使、山梨県立図書館長も務める。 
 

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