よしひろ・まさみちさん(映画ライター) 海外で気付いた母の味 わが家は居酒屋メニュー

よしひろ・まさみちさん

 リウッドスター取材のため、アメリカやイギリスに行くことが多いんです。

 俳優・監督と1対1でインタビューすることもあれば、向こうは1人で、こちらはライター数人というグループインタビューもあります。よく一緒に取材するライターの中に、食べ物の連載をしている人がいて、その人は必ず食べ物について聞くんですよ(笑)。

 それで分かったのが、イギリス人俳優は外食はほとんどせずに、自分で料理をするということ。ケイト・ウインスレット(『タイタニック』など)は子どももいるから自宅で作るのは自然かもしれませんが、ベネディクト・カンバーバッチ(『SHERLOCK(シャーロック)』など)も料理が好きなんですって。

 それに対してアメリカ人俳優は外食ばかり。彼らはパパラッチに撮られるのも仕事のうちと考えてますから(笑)、有名レストランに出掛けるんですね。

 こうした監督・俳優を取材する場合、行き先はロサンゼルス、ニューヨーク、サンフランシスコ、ロンドンの4都市がほとんどで、1泊3日か2泊4日というきついスケジュール。楽しみといえば夕食しかないんですよ。あたしの場合、それぞれの街に住む友達に頼んで、旬のレストランを紹介してもらいます。

 すると行く先々で店のスタッフが「この間、○○が来た」と、有名俳優が来店したことを自慢するんですよ。

 年か前、ニューヨークの友達に、その当時すごく人気だったビストロに連れて行ってもらいました。そこにはカーテンで仕切られた小上がりのような席があって、そこから食事を終えたジェイク・ギレンホール(『ブロークバック・マウンテン』など)が出てきたんです。アメリカの俳優は、本当にはやりのレストラン巡りが好きなんだと実感しました。

 ハリウッドの映画業界で一番の食道楽だと感じたのは、ジョン・ラセター(『トイ・ストーリー』などの監督)です。ピクサー(ラセターの当時の会社)の本社ビルには社食があって、そこにはピザ用の石窯までありましたし、パックのおすしまで売ってるんです。

 あたしもピザを頼んでみました。1枚6ドルくらい(約670円)で、結構いけるんです。ビルを建てる時、彼の発案で石窯を置くという前提で設計に当たったということでした。

 ラセターはナパバレーの奥の方にワイナリーも持っています。あたしも訪ねて試飲しました。ごくごく少量しか生産していないそうで、サンフランシスコの酒屋をいくら探しても売っていない。商売というよりは、本人が飲みたい物を造る道楽といった感じなんでしょうね。

 ンヌやトロントなどでの国際映画祭の取材ですと、現地に2週間もの間、滞在します。

 あたしの場合、最初の1週間は現地ならではの食事を楽しめるんですが、2週目になると白いご飯を食べたくなるんです。それもアジアの長粒米ではなく、粘り気のあるお米を。おみそ汁も飲みたくなりますし。

 昨年のトロント映画祭では我慢しきれず、ゲイタウンの中にある和食店を紹介してもらいました。これがまるで日本の居酒屋と同じ感じで、うれしくなって。サッポロビールを飲み、つまみを食べながら、ふと気付いたんです。居酒屋の味って、亡くなった母親の料理に似ている、と。亡き父もお酒が好きだったから、わが家の食卓は居酒屋メニューだったんですよね。

 ハリウッドスターも好む旬のレストラン巡りをしてきましたが、あたしが一番好きなのは、母が作ってくれた居酒屋料理なんだと実感した映画祭でした。(聞き手・菊地武顕)
 

<プロフィル> よしひろ・まさみち


 1972年、東京都生まれ。女性誌、情報誌を中心に映画などの記事を執筆する傍ら、「スッキリ」(日本テレビ系)などテレビ、ラジオで映画解説を担当。『家の光』に「よしひろまさみちのシネマ天国」を連載中。 

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